さようなら、お別れしましょう
35 きっと私は死んでしまう

 王宮で冷たくされたことを忘れるくらいに、シャルク・ホジャでの生活は楽しかった。
 私は妃として嫁いだのだから、王宮に戻るべきだとわかっている。

 ――戻らなくてはならないと思うと、泣きたくなるのは、妃として失格ですよね。

 真夜中でも明かりが絶えることなく、運河の船、家の明かりが輝いて見えた。
 明かりがにじんで見え、自分が泣いていることに気づき、涙をぬぐった。
 私が広間の窓にかじりついている時間はない。

「しっかり仕事を終わらせないと! 頼まれた町の地図を仕上げますよ!」

 月は高い位置にあり、屋敷の者たちは、昼間の仕事に疲れて眠っている。
 燭台をいくつか運んで、広間に並べて火を灯す。
 広間が明るくなって、みんなで作った地図がはっきり見えるようになった。

 ――本当はここにいたい。

 まだ私が行ったことのない店、知らない場所がある。
 もし、私が自由な身であれば、間違いなくここに残り、ジグルズ様の仕事のお手伝いをすることを選んだはずだ。

 ――でも、それはできない。私は妃だから。

 絵筆を握る手に力がこもる。
 ここに残れないのなら、せめて私がここにいた証拠となるものを――地図を残していきたい。
 地図は一枚だけでなく、何枚も必要だった。
 町は広く、地図を何ヵ所にも張り出す予定でいるからだ。
 見やすくするため、大きく作ったので、色を塗るのも時間がかかった。
 でも、これがあれば、迷う人は減る。
 それに――

「地図を見たら、私がここにいたって、思い出してくれるわ。私が死んでしまっても……」

 もちろん、死にたくはない。
 だから、頑張っている。
 頑張っているけど……あと、どれだけ頑張ったら、私は生き残れるのだろう。
 
 ――町のみんなに、私がいたことを忘れないでほしいって思ってる。

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