さようなら、お別れしましょう
39 犠牲の力 ※ジグルズ
――俺は母を救えなかった。
幼い頃の夢をよく見る。
これも夢だとわかっているのに、目を覚ますことができなかった。
「ジグルズ。お前は王になるんですよ」
母が一番好きな花は薔薇の花だった。
父は庭師に命じ、母のために立派な薔薇園を造った。
俺がその薔薇園へ呼ばれると、そこには父がいて、二人は仲良く寄り添っている――幼い頃から見慣れた光景だった。
そして、母はきまって俺の頬を両手で包み、瞳を覗き込んで言うのだ。
「ジグルズが王になった姿をこの目で、見れないことだけが心残りだわ」
幸福感に満ちた母の顔が、俺の目に映る。
長い黒髪、宝石のような青い瞳に陶器のような白い肌――母はとても美しい人だった。
だが、母は美貌によって父に見初められたわけではない。
母はグランツエルデ王国の貴族令嬢で、王の元へ嫁いだのは死ぬためだった。
母はいずれ自分が死ぬと、理解していて王家へ嫁いだ。
「わたくしが死んでも、お前が王になるのであれば悔いはありません」
「ジグルズ、お前の母は賢く素晴らしい女性だ。誇らしいだろう?」
「父上。何度も言っていますが、俺は王の力を継承する気はありません」
「王の力には犠牲がつきものだ。いい加減、受け入れろ」
隣国ドーヴハルクの王の力は娘の命を犠牲にする。
そして、グランツエルデ王の力は、妻の命を犠牲にし、王の力を子へ継承させる。
王が力を渡す際には、継承者の母を殺すことで、継承の力が発動し、次の代へ受け継がれる。
代々、そうやってグランツエルデ王国の王の力は受け継がれてきた。
――グランツエルデ王となる者は、ずっと最愛の女性を殺し続けていくのか?
妻を自分の手で殺し、手に入る力は、『少し先の未来が見える』だけなのである。
俺にはどうしても、その力が必要とは思えなかった。