さようなら、お別れしましょう
第3章 40 姉を知る人(1)
――私は生きている。
どういうわけか『妻の不義』にはあたらなかったようで、まだ私は死んでいない。
暗殺者に襲撃されてから、すぐに屋敷へ戻った。
リュザール王国の一行は、ジグルズ様のお屋敷で滞在予定だったため、そのまま一緒に移動した。
カリム様が同伴していた腕のいいお医者様のおかげで、処置をすばやく済ませることができたものの、失った血が多く、ジグルズ様は眠ったままだ。
ジグルズ様は部屋に運ばれ、目覚める気配がない。
私は青白い顔で眠るジグルズ様のそばにいて、悪夢を見てうなされるジグルズ様の手を握った。
「ジグルズ様……」
――どんな夢を見ているの?
悪夢を見たと、つい先日も言っていたジグルズ様。
心に深い傷を負っているからこそ、繰り返し同じ夢を見るのだと思う。
「ジグルズが心配なのはわかるが、少し休んだらどうだ。食事もとっていないだろう?」
リュザール王国の王子、カリム様がジグルズ様の様子を見に、部屋へ入ってきた。
カリム様は髪に布を巻き、宝石がついたイヤリングとブレスレット、風通しの良い生地を使った長衣とズボンという服装をしている。
「いえ……。私は大丈夫です。私よりも他の人たちのほうが、大変なはずです」
ゼリヤたちはジグルズ様が動けない状態だとわかると、それぞれどこかへ散らばっていった。
ジグルズ様はもしもの時のために、自分の配下に宛てた手紙を残しているといた。
『なんならかの理由で、俺が動けず、指示が出せなくなった場合と、命を落とした時の二通ある。俺になにかあったら開け』
ゼリヤたちにそう言っていたらしい。
それで、今回、ゼリヤたちは手紙を開いた。
ジグルズ様の指示が書かれており、その指示通り領地内の各所へ散らばった。
ゼリヤはすぐに、ジグルズ様が刺された事実を隠すよう全員に命じた。
町の人々を怖がらせるだけだとして、町の人々には知らされなかった。
お屋敷で働く使用人たちは、町の人々に悟られないように、いつも通りに振る舞っていた。
「母が違っていても、どこかイレーネと似ているな」
イレーネお姉様の名に、ハッとして振り返った。
「やっとこちらを見た」
カリム様は笑いながら、ハリルの頭をなでていた。
心配そうな顔をしたハリルが、食事を持って立っていた。
「レフィカ様。食事を食べてください……。おれ、護衛なのに、レフィカ様を危険な目にあわせて、それにっ……ジグルズ様も守れなかった!」