さようなら、お別れしましょう
13 生き延びる手がかり(1)
「イーザック様。旅行を許可してくださって、ありがとうございます!」
別居された妻なのに、感謝してしまった。
なぜなら、生まれて初めての旅行である。
それも、大勢の護衛や侍女を引き連れる必要のない自由な旅行!
イーザック様の気が変わらぬうちにと、すぐに私は旅立った。
私がいるのは、グランツエルデ王国内でも多くの人が集まる場所。
異国の雰囲気が広がる町並みを目にして、胸の前に手を組み、目をキラキラさせた。
「これが、お忍び旅行……。ジェレン、最高ですね!」
「レフィカ様っ! 声が大きいですよ。忍ぶつもりがあるなら、お静かにっ!」
ジェレンに叱られてしまった。
旅行にやってきたのは、グランツエルデ王国の中で、もっとも人が行き交う都市。
ベルクヴァイン公爵領――商業都市シャルク・ホジャ。
巨大な運河があり、大陸の東西南北を結ぶ重要な交易都市である。
シャルク・ホジャを町と呼ぶ人もいるし、都市と呼ぶ人もいる。
それは、あまりにも急激に早く成長したためだ。
そのせいで、本来なら市庁舎が必要な規模だけど、まだ町役場しかないという事態になっている。
人が多すぎて、手続きが滞っているという噂を聞いた。
でも、私はイーザック様から、国内であれば自由に旅行してもいいという許可証をいただき、滞在許可証もいらなかった。
国王直々に発行された最強の許可証である。
――私に興味がないから、適当に許可を出したのだろうけど、おかげで国内ならどこへでも旅行できるわ。
しかも、滞在期限は無期限。
私に王都にいられたら、心置きなくメリアとイチャイチャできないと思ったのかもしれない。
今回、旅行の許可を取ったのは、『王女の逃亡を禁ずる』という【契約】のせいで、逃亡でない証拠に許可をとった。
「もう! レフィカ様! あまりはしゃいでは、フードが落ちて、銀髪が見えてしまいますわ!」
私とジェレンは、目立たないようマントを羽織り、フードをかぶっていた。
異国の人間が多い町をとはいえ、グランツエルデ王国内では、ドーヴハルク人は少なく目立つ。
「気をつけてくださいませ。異国の人間が多い町を選んだとはいえ、ここはグランツエルデ王国領です」
「そんな心配しなくても、これだけ人が多かったら、誰も私たちを見ていませんよ」
「そんなことありません。妃が護衛も連れずに町に来たのですから、絶対に目立たないでください!」
「ジェレン……。私の顔を知っている人は、王宮で働いていた人以外いませんよ……」
結婚して一年。
公式の行事に出席しておらず、王妃としての知名度は皆無。
結婚式はヴェールで顔が見えなかったし、わかるのは銀髪くらいだけど、これもドーヴハルク人なら大抵の人は銀髪である。