さようなら、お別れしましょう
第2章 21 私にできること(1)
イーザック様は嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。
――いったい、なんのご用事だったのかしら?
しかも、『【契約】に気をつけて生活しろよ』みたいなことを言っていたような気がする。
私に親切な忠告を帰っていった?
もしかして、別居された私が現実に絶望し、旅行中に逃亡を企てて死ぬかもしれないと、心配になったのだろうか。
そんな心配はご無用である。
「まるで嵐のようだったな」
ジグルズ様はそう言ってから、ゼリヤを呼んだ。
「ゼリヤ。そろそろ、ハリルが菓子を買って帰ってくるだろう。茶と菓子を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「俺が結婚していないせいで、誤解が生じて困るな」
ゼリヤはすまなさそうな顔をして、言い訳をした。
「申し訳ありません。てっきり、その……」
「ゼリヤ。変な気を回すな。お前もドーヴハルクの【契約】を知っているだろう?」
「ええ。それは、もちろん……」
ゼリヤは私を気遣い、言葉を濁し、私の様子をうかがう。
「お気遣いなく。私は平気です。私は【契約】を免れないだろうと、幼い頃から覚悟してきました」
母が父の怒りを買い、後宮を追い出された時、私はどうあっても逃れられず、この運命に挑むしかないと思って生きてきた。
それは、イレーネお姉様も同じ――私たちには、死の運命を覆してみせるという決意があった。
「それなら、よろしいのですが……」
ゼリヤは後宮に出入りする商人で、他の王女とも面識がある。
ドーヴハルク王国の後宮は、商人であっても女性しか入れない。
そのため、よく商人の奥様や妹が代理で物を売りにきていた。
後宮の外に出られない王女たちとって、買い物は楽しみの一つだ。