総長の愛が、重すぎる

第七章

後夜祭の夜から数日後。

ひまりは朝からずっと落ち着かなかった。

今日は、蓮の家で二人きりで過ごす約束をしている。

おうちデート。

その響きだけで、心臓が変になるくらい緊張する。

待ち合わせ場所で合流したあとも、ひまりの手はずっと落ち着かなかった。けれど蓮は、そんなひまりの緊張を見抜いているくせに、何も言わずに手をつないでくれる。

それが余計にどきどきした。

「緊張してる?」

家の近くまで来たところで、蓮がふいに聞いた。

ひまりは少し迷ってから、正直にうなずく。

「……してる」

「俺も」

思わず顔を上げると、蓮は少しだけ目を細めた。

「おまえが可愛すぎるから」

またそういうことを言う。

ひまりが真っ赤になるうちに、蓮は玄関の扉を開けた。

家の中は驚くほどきれいだった。

黒やグレーでまとまった落ち着いた部屋。余計なものが少なくて、蓮らしい。

「おじゃまします……」

小さな声で言いながら入ると、蓮は後ろから鍵を閉めた。

その音だけで、ひまりの鼓動が跳ねる。

二人きり。

改めてそう思うと、落ち着けない。

リビングに通されて、ソファに座る。少しして蓮が飲み物を持ってきてくれた。

「ありがと」

「ん」

ひまりがコップを受け取ると、蓮は隣に座る。

ぴったり、というほどではない。

でも、少し動けば肩が触れそうなくらい近い。

テレビをつけても、何が流れているのか頭に入らなかった。

静かな部屋に、二人の呼吸だけがやけに大きく感じる。

「ひまり」

「な、なに」

名前を呼ばれるだけで声が裏返る。

蓮はそんなひまりをじっと見つめたまま、ぽつりと言った。

「今日、誰にも邪魔されない」

その一言が、ひまりの胸を熱くする。

学校でも、文化祭でも、いつも誰かがいた。

でも今日は違う。

本当に二人だけだ。

「……うん」

小さく返事をすると、蓮の手がそっと伸びてきた。

指先がひまりの髪に触れて、耳の横にかかった毛をやさしく払う。

その仕草があまりにも自然で、やさしくて、ひまりは息を止めた。

「ずっと思ってた」

「え」

「おまえ、外で見せるには可愛すぎる」

「またそれ言うの?」

「ほんとだからな」

蓮はそう言って、ひまりの肩をそっと引き寄せる。

ふわりと寄りかかった先は、あたたかくて大きい。

「れん」

「少しだけ、このまま」

低い声が近すぎて、ひまりはうなずくことしかできない。

しばらくのあいだ、蓮は何も言わずにひまりを抱き寄せていた。

急がないその腕が、逆に大事にされている感じを強くする。

やがて蓮が、ひまりの顔をのぞきこむように少し身をかがめた。

「今日、誰かに話しかけられた?」

「え?」

突然の質問に、ひまりはぱちぱちと目を瞬く。

「学校で」

「話しかけられたけど……クラスの子とか」

「男」

ひまりは少しだけ考えてから、正直に答えた。

「プリント渡されたときに、少し」

その瞬間、蓮の目が細くなる。

「あいつか」

「知ってるの?」

「見た」

やっぱり見ていた。

ひまりが苦笑すると、蓮は少し不満そうにひまりを抱く腕に力をこめる。
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