雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

1-3

 目を覚ますと、見知らぬ天井があった。質素な木の天井だ。

 ぱちぱちと薪が弾ける音がした。
 頬に当たる空気は温かい。

「起きたか」

 低い声がして、エノレアはびくりと肩を震わせた。
 ぎこちなく首を回してそちらを見ると、大柄な男が椅子に座っていた。

 軍人のようながっしりとした体格で、焦げ茶色の髪は短く切られている。年齢は三十代半ばから後半くらいだろうか。
 顎には剃り残しの無精髭がはえていて、目付きは肉食獣のように鋭い。

 端的に言うと、怖い顔だ。

「ひっ! ご、ごめんなさい」
「あ?」
「ごめんなさい」

 男は眉をひそめた。

「起きてそうそう謝るやつがあるか」
「……申し訳ありません」
「だから謝るな」

 男は立ち上がると、鍋から何かを椀によそった。
 湯気が立っている。

「食え」

 ずいっと差し出された椀を、エノレアはおそるおそる受け取る。

「これは……」
「粥だ。たぶん」
「たぶん?」
「米を煮た。だから粥だろ」

 エノレアは椀の中を見た。
 エノレアの知る粥は白いが、これは薄茶色のどろどろの液体だった。米の原型は残っていない。
 匂いは……鼻を寄せてもよくわからない。

 けれど、温かいのは確かだ。
 それだけで胸がいっぱいになった。
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