王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

第11話

 慎司さんが向かった先は、雑貨屋だった。
 木製の食器や花柄のクッションカバー。小さなキャンドルには炎が揺らめいている。
 暖色系の間接照明に照らされたインテリア雑貨が、店内に温もりのある空間を作っていた。

「とても素敵なお店ですね」

 落ち着いた雰囲気の小物に、つい目移りしてしまう。
 あの黒猫の置物、自分の部屋に飾ってみたいな。

「気に入ってくれて嬉しいよ。ここは、私の好きなお店だから」

 初めて知った、慎司さんの好きなもの。
 同期の関係では見られなかった彼の素顔に少しだけ浮かれてしまう。

「慎司さんにピッタリですね」
「ふふ、ありがとう。だけど、今日はこっち」

 そう言って、慎司さんが手を引っ張ってくれる。
 少し進んでいけば、アロマオイルや香水が並んでいた。
 ふんわりと香る花の香りに癒される。 

「ここは香りの種類が多くてね。フローラルから柑橘系まで、いろいろ揃っているんだ」

 色とりどりの瓶に詰められた香水が可愛らしい。
 その中から、お試し用の香水を手に取ってみる。
 蓋を開ければ、すっきりとした香りが鼻をくすぐった。
 これは、シトラスだろうか。
 
「明花の香水は、どれを使っているのかな」
「私、ですか?」
「そう。優しい香りが魅力的だなと思っていたんだ」
 
 慎司さん、私が香水をつけていることに気づいてくれていたんだ。
 準備したことが報われ、心が舞い上がってしまいそうになる。
しかし……。

「お恥ずかしい話ですが、昨日SNSで話題の商品をそのまま買っただけなのでよくわからずでして……」

 普段香水を使わない私には、もちろん知識なんてない。
 「女性におすすめの香水ランキング」の情報を鵜呑みにしただけ。
 ここで背伸びをしたことが仇となってしまう。

「……もしかして、今日のために香水を買ったのかな」

 彼の鋭い指摘に、私は頷くことしかできなかった。
 そんな私の反応に、慎司さんは何か言いたげに唇を開きかけて、けれど何も言わずに閉じた。
 呆れられてしまったのか。
 無知を晒してしまった恥ずかしさに、目を伏せてしまう。

「ねぇ、明花」

 綿菓子のような心地よい声で、私を呼ぶ。
 顔をあげれば、慎司さんは優しく——だけど熱を含ませた瞳で微笑んだ。

「よければ、私から香水をプレゼントしてもいいかな」
「……いいんですか?」
「もちろん。今日の記念として受け取ってほしい」
「ありがとうございます」

 二人の間に、華やかな香りがふわりと広がった。
 慎司さんは、どんな香水を選んでくれるのだろう。
 香水には、恋人へのアピールだけでなく、リラックスしたり気分を高めたりする効果もあるらしい。

「慎司さんが選んでくださった香水なら、いつでもつけたくなりますね」
「ぜひ。そのためにも良いものを選ばなくてはね」

 力強く答えた慎司さんは、二本の香水を手に取り、交互に見比べている。
 そんな彼の姿が珍しく、私は横顔をじっと見つめるのだった。
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