王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

おまけ:第4話

 入社して二年目。
 営業成績を維持したからか、周りからの評価が変わってきた。
 以前は周囲から距離を置かれていた私も、少しずつ社内に溶け込めてきたように思える。
 特に、先輩方との距離は目に見えて縮まった。私と話すときの先輩方に、わかりやすく笑顔が増えたのだ。

「齋藤さん、頼っていいですか?」

 今日も藤島さんから、相談を持ちかけられる。
 どうやら取引先に提供するデータがまとめられず苦戦している様子だ。

「失礼するよ」

 彼女のデスクを覗き込み、数値の誤りを指摘した。
 少しだけ振り向けば、数センチ先には彼女がいる。
 意識、してくれるだろうか。

「ありがとうございます。初歩的なミスでしたね……」

 そう言って、藤島さんが目を伏せてしまった。
 この仕草は、ただ落ち込んでいるだけだろう。

「ふふっ、気にしなくていいよ。それに、以前より格段に作業効率が上がっている。ちゃんと慣れてきた証拠だね」

 私が褒めれば、藤島さんは花が咲いたように表情が明るくなった。
 私の言葉一つで表情を変化させる彼女から目が離せない。
 ふと遠くから温かい視線を感じる。
 その矛先へ振り向けば、先輩方が頬に手を当てながら大きく唇を動かした。

「頑張れよ、王子様」

 ……もしかして、私が周囲に溶け込めたのは、彼女のおかげだろうか。

 ある日の社内飲み会。
 いつもの居酒屋でひと盛り上がりした後、各々の卓に集まって会話を楽しんでいた。
 藤島さんは、対角の卓で男性社員に囲まれ、時々お酒を口にしながら隣の男性に笑いかけている。
 その姿を見れば、こめかみが痛くなってきた。
 いったいどんな話をしているのだろうか。

「ねぇ、齋藤くん」

 よく通る声に振り向けば、真向かいに座っていた加藤先輩がにんまりと笑っていた。
 何だか、嫌な予感がする。

「あなた、藤島ちゃんのことが好きでしょ」

 あまりにも迷いのない言葉に、少しだけ肩が跳ねた。
 その一瞬を、彼女が見逃すはずもない。

「お、正解だったね」

 加藤先輩は、面白いものを見つけたように目を細めた。

「どうしたんですか、急に恋愛話なんて」
「ああ、ごめんなさい。からかっているわけではないの。ただ……齋藤くんも人間なんだと思って」
「人間、ですか?」

 発言の意図が掴めず、淡々と返してしまった。
 加藤先輩は、言葉を探すようにカクテルグラスをくるくると回す。カラン、とグラスの中で氷が鳴った。

「齋藤くんは、見た目も実力も完璧な王子様。だけど、その正体は恋する一人の男性だった。……そっちの方がみんなも親しみやすいじゃない」

 それが温かい視線の正体か。
 まさか周囲から王子様と呼ばれていた私が、今は一人の男性として恋を応援されているなんて。

「そんなにわかりやすいですか、私」
「ええ。今も嫉妬の炎が丸見えだよ」

 そう言って、加藤先輩はカクテルを一口あおいだのだった。
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