王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

第9話

店内は、同年代の女性客や子供で溢れていた。
時折、人混みに負けそうになってしまうも、私の歩みは止まらない。壁紙から天井までスターちゃんで埋め尽くされた店内に、目を奪われてしまう。

「可愛い……!」

 ポップな音楽が店内に流れている。動画で使用されていた音楽と同じだ。細かいところまでファンの喜ぶポイントが行き届いている。

「ふふっ、明花の珍しい姿が見られて嬉しいよ」

 慎司さんが小さく笑ったとき、死角から子供が飛び出してきた。

「おっと、危ない」

 慎司さんが咄嗟に私の腕を引いた。
 突然のことに身体がついてこず、足がもつれた。ぐらりと身体が傾く。

「大丈夫かな」

 背中に感じるのは、彼の体温。
 とっさに、慎司さんへもたれかかってしまったらしい。
 隠しきれないほど心臓の音が鳴り響いている。
 気づかれてしまう前に、急いで離れた。

「あ、ありがとうございます」
「気にしないで。ほら、この場所はゆっくり見られるよ」
 
 慎司さんが指した商品棚には、様々な種類のキーホルダーが並んでいた。その中でも、動画の名場面を再現したキーホルダーが目に留まる。

「慎司さん、よければ一緒に買いませんか」
「一緒に?」
「はい。私からプレゼントしたいです」

 慎司さんが、息を呑んだ。
 ……そんなに変なことを言っただろうか。

「とても魅力的な提案だけれど、どうして急に」
「恋人同士、お互いのことを知りたいですから。まずは、私の好きなものを知ってください」

 眩しい笑顔のスターちゃんを二つ手に取る。
 これは、迷子の女の子に手を差し伸べるシーンを再現したものだ。
 なんとも今の私たちらしい。

「これにします。買ってきますので、外で待っていてください」
「……ありがとう」

 感謝の言葉とは裏腹に、どこか重みを感じさせる言い方だった。
 私の選んだスターちゃんを気に入ってくれたのだろうか。
 彼の感情を読み取ることのできないまま、私はレジへと向かった。

「——本当に、ずるい人だ」

 明花がレジへ向かう背中を見つめながら、私は小さく呟いた。その言葉はあまりにも弱々しく、きっと彼女まで届かなかっただろう。
 それにしても……何も知らない顔で、あんなことを言うなんて。
 きっと明花にとっては、ただ好きなものを知ってほしいだけだろう。
 しかし、私にとっては全く違う。
 もっと特別な意味を期待してしまうほど、私は彼女に溺れているのだ。
 気づけば、その背中に手を伸ばしていた。

「……あれ、齋藤くん?」

 ふいに、後ろから声をかけられてしまい、慌てて手を引っ込める。
 このハリのある声は、恐らく……

「お疲れ様です、加藤先輩」

 声の方向へ振り返れば、予想通り加藤先輩が手を振っていた。社内でも評判の人懐っこい笑顔で、私を見上げている。

「もしかして……デート?」
「はい。デートです」
「でっ、デート!」

 加藤先輩の目が点になったまま、動かなくなった。わかりやすく驚いている。そんな表情の豊かさも、彼女の愛嬌の良さに繋がっているのだろう。
 しばらく経ち、意識を取り戻した加藤先輩は、きょろきょろとあたりを見渡した。

「……ようやく、藤島ちゃんと結ばれたの?」

 以前から私たちの仲を面白がっていた加藤先輩らしい、歯に衣着せぬ発言だった。それでも彼女の人柄のおかげで嫌味には聞こえない。

「……さぁ、どうでしょうね」
「えっ!」
「では、私はこれで失礼しますね」

 軽く頭を下げて、明花のもとへと向かう。

「ついに、ついにか……!」

 背中越しに、加藤先輩の落ち着かない声が聞こえた。
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