早河シリーズ完結編【魔術師】
第三章 紅蓮
 桜田門の警視庁の建物を夕焼けの太陽が照らす頃、早河真愛並びに木村斗真誘拐事件の第一回捜査会議が始まった。

指揮官の篠山恵子警視が会議室に入ってきた。一同の視線が彼女に注がれる。
目鼻立ちの整った顔を無表情のマスクで覆い、理知的な雰囲気を漂わせる恵子は背筋を伸ばして会議室に用意された席に着席した。

 捜査本部の主な人員構成は上野恭一郎や小山真紀が所属する捜査一課と、貴嶋が関与している疑いが強いことから石川博史警視正が率いる組織犯罪対策部との合同捜査だ。

「早河真愛を警護していた塚本巡査の容態は?」
『頭を強く殴られており、意識が戻らない状態が続いています』

刑事が恵子に報告を挙げる。早河真愛、木村斗真ともに発見の報告はない。

「佐藤瞬についてわかったことは?」
『警視庁のDNAデータベースの佐藤のものとして保管されていたデータに改竄の形跡が見られました。9年前にはまだ開発されていなかった、科捜研の最新の解析ソフトを使用しての解析結果ですので間違いありません』

 上野恭一郎の班の杉浦警部補が報告した。恵子はタブレット端末に表示された捜査データの閲覧を終えて顔を上げた。

「上野警視。佐藤と接触した木村美月から詳しい話は聞けましたか?」

彼女は上野を名指しする。佐藤の件で美月への聴取を担当したのは部下の小山真紀だ。それを承知で恵子は上野を指名した。

『佐藤がカオスを解任されていること以外は彼女から有力な情報は……』
「それはどうかしら?」

ショートカットの髪を耳にかけて恵子は微笑んだ。

『何か?』
「木村美月は佐藤瞬と恋愛関係にあった。それは当時、静岡の事件現場にいた上野警視ならよくご存知よね」
『確かに木村美月は佐藤と恋愛関係にありましたが、彼女は今は結婚しています。佐藤に関する情報を隠し立てするだけ自分の立場が悪くなると彼女は理解している。木村美月はそんな愚かな真似はしませんよ』

 冷静に反論する上野と恵子の間に流れる一触即発のムードに捜査員は困惑気味だ。
側で見ている真紀や石川は平然としたものだが、新人の芳賀敬太や土屋千秋は狼狽えている。

「随分と木村美月の性格に詳しいのねぇ。それもそうよね。彼女と関わった12年前から、あなたは彼女を娘のように可愛がってきたんですものね」
『今は私個人の話をしているのではありません。話の脱線は止めていただきたいですね』

上野と恵子が作り上げた険悪な雰囲気はその後も変わらずに第一回捜査会議は終了した。
< 46 / 244 >

この作品をシェア

pagetop