【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

1.

「レイラーニ・ロードデンドロン公爵令嬢! 私はお前との婚約を破棄する!」


 綺羅びやかな夜会会場に響き渡るテノールボイス。その場に集まった全員が一斉に息を呑み、声の主をそっと見遣った。

 光沢のないアッシュヘアーに、はしばみ色の瞳、ともすれば群衆に埋もれてしまいそうな平凡な容姿をしているこの男性は、我が国の王太子、シュタイン殿下だ。
 彼の傍らには、金色碧眼、豊満な肢体の持ち主である男爵令嬢イミティアが控えている。


(あぁ……ついにやっちまったかぁ)


 こうなることはある程度予想できていた。
 シュタインは学園内のどこに行くにもイミティアを隣に侍らせていたし、恋仲であることを隠しもしなかった。レイラーニとの結婚を不満に思っていることは、誰の目にも明らかだったから。

 しかし、なにも卒業祝いのおめでたい席で高らかに宣言することではあるまい。話し合いを重ね、穏便に解消すればいいだけの話だ。


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