【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.(END)

「演技? さっきのが……?」


 会場がにわかにざわめく。
 戸惑い、混乱。不安に葛藤。
 卒業生たちも、この場に集められた大人も、一様に顔を見合わせ、大きく首を傾げた。


「そうっすよ。これから社交界に出る若者たちに『こんな愚かで格好悪いことは絶対するなよ』って釘を刺したかったそうで。殿下なりの卒業祝い――――プレゼントみたいなもんっすねぇ」


 堂々と、胸を張ってハッタリをかます。

 彼が嘘を吐いていることは、ほとんどの人が分かっているだろう。
 けれど、みんなが彼の嘘を信じたい――――このまま『何事もなかった』ことにしてしまいたかった。


「そういうわけなんで――――夜会を再開しませんか? 今日は大事なお祝いの日でしょう?」


 ベルクが笑う。
 しばらくの間、重たい沈黙が横たわった。


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