【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

3.

 ロミー様は私との約束をちゃんと守ってくれた。私とアンベール様が恋人のふりをしているという噂は今のところ流れていない。最初は半信半疑だった学園の人々たちも、今ではすっかり私たちを本物の恋人同士だと信じてくれたようだった。


「まあ、元々しょっちゅう一緒にいたしね」

「そうかな……? たしかに、図書館で一緒になることは多かったけど」


 そう言って首を傾げる私にアンベール様はクスクス笑う。
 ロミーさんが言うように私たちの間には甘い雰囲気があったわけでもなければ、示し合わせて一緒にいたわけでもない。そりゃあ、私はアンベール様と少しでも一緒にいたくて、こっそり彼の行動パターンに合わせて動いたりしていたけど。


「もうすぐ長期休暇だね」

「……ええ」


 長期休暇――お父様がファビアン公爵と正式に婚約を、と考えていた時期だ。あれから私にはなんの連絡も来ていないけど、お父様はどのように考えているのだろう? 知りたい……けれど怖い。もしも水面下で公爵との婚約が進んでいたとしたらどうしよう?


「そんなに深刻な顔をしないで。きっと全部上手くいくよ」

「そうかしら?」

「もちろん。こう見えても学年一位の秀才だからね。策を練るのには自信があるよ」


 アンベール様があまりにも『どうだ!』という顔をして笑うものだから、私もつられて笑ってしまった。そんな顔をされたら不安もどこかに吹き飛んでしまう。アンベール様はそんな私を見つめながら、満足気に微笑んだ。


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