【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

1.

(あれ……?)


 なんだろう、この既視感。わたし、目の前の男性にものすごく見覚えがある。
 サラサラした金色の長い髪、鋭い水色の瞳。スラリと長い手足に、あまり人を寄せ付けない雰囲気――。


(わかった! ブレディン様だ!)


 合点がいったその瞬間、脳裏に記憶が押し寄せてくる。わたしとは違う『わたし』の記憶。間違いない。これは前世のわたしの記憶だ。


 状況を整理しよう。


 わたしはマヤ・アップグルント。十七歳。侯爵の娘だ。
 両親は健在。三歳年上の兄が一人いて、家族仲良く領地で暮らしている。
 幼い頃の記憶だってバッチリ残っている。わたしがわたしであることは間違いない。

 そして、今しがた思い出した記憶――前世のわたし、摩耶は病弱で、人生の殆どを病院のベッドで過ごしていた。学校に通うこともできず、友達だっておらず、家か病院でジッと過ごす日々を送っていた。


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