【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

3.(END)

(詰んだ……)


 天井を仰ぎつつ、わたしはひとりため息をつく。

 あれ以降もわたしはアイラとブレディン様、それぞれにアプローチを続けていた。けれど、二人の返答は変わらない。わたしとの結婚は避けられないという話だった。偽装結婚を持ちかけるような雰囲気でもないし、正直言って参ってしまう。


「お嬢様、そろそろブレディン様のお屋敷に参りませんと」

「……ああ、そうだったわね」


 今日はブレディン様のお屋敷に行くことになっている。あちらに行くのは今日がはじめてだ。


(せっかくの聖地巡礼なのにな……)


 残念ながらまったくもって気乗りしない。
 むしろ、見れば見るほど悲しくなってしまいそうだ。二人がここで幸せに過ごしていたのにな、って。


「ほら、そんな顔をなさらないで。せっかくの愛らしいお顔が台無しですよ?」

「そんなこと言ってくれるのはアンセルぐらいよ? ……だけど、お世辞でも嬉しい。ありがとう」

「いいえ、心からの本心ですよ」


 アンセルはそう言って恭しくわたしの手を握る。胸がキュンと跳ねた。


< 235 / 263 >

この作品をシェア

pagetop