【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.

「はぁ……なんでこの僕がリゼットなんかと夜会に出なければならないんだ」


 ルロワが漏らす不機嫌なため息に身がすくむ。リゼットはルロワの腕に申し訳程度に指を乗せ「すみません」とつぶやいた。

 普段、リゼットはルロワと接する機会はほとんどない。彼は討伐の間、近くの旅館や領主の館に引きこもって己の安全を確保しているからだ。

 けれど、王族である以上、夫婦揃って参加が必要な付き合いというのはある。リゼットだって、ルロワと一緒に夜会に出席などしたくなかった。


「本当に無駄な時間だ。反吐が出る。おまけに、リゼットは着飾ったところでその程度。おまえのドレスにかける金などもったいない」

「……殿下のおっしゃるとおりです」


 今夜のリゼットは、彼女の髪や瞳の色に合わせた緑色のドレスに身を包んでいる。エメラルドのネックレスやペリドットのイヤリングも用意した。ルロワは世間体を気にするため、ドレスと宝石だけは毎回きちんと購入をするのだ。けれど、そのせいで『無駄遣いだ』とネチネチ嫌味を言われてしまう。リゼットからすれば地獄のような時間だ。


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