契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~

第2部 すれ違う朝

圭一郎さんは、朝になるともう隣にいない人だった。

目を覚ましたときには、いつも布団は冷たく、部屋には静寂だけが残されていた。

「……もう、いないんだ」

そんなふうに呟くことが、いつの間にか習慣になっていた。

あのぬくもりも、ささやかれた言葉も――

みんな、夜に見る夢みたいなもの。

だから私は、それを信じすぎないようにしていた。

信じれば、寂しくなるから。

今日もまた、一人の朝がやってくる。

身支度を整えて、いつものように静かに居間へ向かったときだった。

そこに――圭一郎さんがいた。

「……あれ?」

驚きと戸惑いの中で、口から先に出たのは、自然な挨拶だった。

「おはようございます」

圭一郎さんは振り返り、ほんの少しだけ、唇を緩めた。
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