影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~

第三部 初夜、誓いの愛

親族の方々が一人、また一人と帰っていき、にぎやかだった屋敷にようやく静けさが戻ってきた頃――

「――悪い、片付ける仕事があるから行ってくる。」

そう言って誠一郎さんが私のもとへやってきた。

結婚式を終えたばかりとは思えないほど、彼はすでに背筋を伸ばし、仕事の顔に戻っていた。

「……はい。」

私は静かに返事をする。

「着替えて、ゆっくりしているといい。 遅くなるから、夕餉は先に済ませてくれて構わない。」

その言葉に、胸がすうっと冷えていくのを感じた。

(結婚式の日に、別々に夕食……?)

思わず戸惑ったが、すぐにその感情を顔に出さぬよう、私は笑みを作った。

「……承知しました。お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」

誠一郎さんは小さく頷くと、私の肩にそっと手を添えて立ち去った。

その手の温もりは優しかったけれど――

すぐに背中になってしまった。

遠ざかっていく足音を、私は廊下の端まで見送った。
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