影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~

第五部 独占の愛

「それから誠一郎さんは、家にいる時は私の傍を片時も離れなくなった。

お風呂に入る時も、食事をする時も、まるで私に触れていないと息ができないかのように。

「梨子……」

湯船に浸かっている時、背中からそっと抱きしめられる。

あたたかな体温が伝わって、心の奥がじんわりと満たされていく。

「君の肌に……夢中だ。」

低く囁かれる声。

濡れた指が私の肩をなぞり、腕へと絡みつくたび、私の身体は敏感に震えた。

「まさか、こんな若い女に、無我夢中になるなんて……思ってもみなかった。」

その声が、どこかくすぐったくて、誇らしかった。

私はもう――姉の代わりではなく、誠一郎さんの“本当の妻”として愛されている。

そう、感じていた。

「あら!また一緒にお風呂に入ってたんですか!」

ぱたぱたと浴場へと向かう廊下で、女中の志乃さんにばったり出くわした。

タオルを持った私と、少し湯気の名残を纏った誠一郎さんを見て、彼女は目を丸くする。
< 44 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop