影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~

第六部 君に夢中

数日後。私は風邪を引いてしまった。

「やってしまった。」

体調には気を遣っていたのに。

「大丈夫か?梨子。」

「はい、養生していれば治ります。」

仕事に行く誠一郎さんにこれ以上、心配をかけられない。

「しばらく寝所を別にしましょう。」

そう告げた私に、誠一郎さんはほんの少し眉をひそめた。

「それは……困る。」

「でも、風邪が移ると大変なので。」

私は咳き込んだ。喉が痛くて、声も少しかすれていた。

「……仕方がないな。」

そう言いながらも、誠一郎さんは私の額にそっと手を当てた。

「熱いな。ちゃんと水は飲んでるか? 着替えは? 寝具は重くないか?」

質問攻めにされて、思わず笑ってしまう。

「大丈夫です、もう子どもじゃないんですから。」

「いや、君は俺の“大事な妻”だ。」

その一言に、胸がじんとした。

誠一郎さんは静かに立ち上がり、寝所へ向かうようだったが――

ふと振り返ってきた。
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