影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~

第七部 崩れた真実

そして、ある日。

誠一郎さんが出かけた午前中、突然、玄関に威厳ある声が響いた。

「これはどういうことか、説明してもらおうか。」

座敷に通されたのは、誠一郎さんのご両親だった。

父は陸軍の退役将校。母は華族の出――どちらも厳格で知られる人物。

「こちらを。」

母が静かに差し出した書類を手に取る。

そこには――

「高嶋梨子、東京都本郷区にて実家と同居中」
「現夫婦との身元不一致あり」
「出生名:高嶋梨沙」

息が止まりそうになった。

いつ、どうして……?

「どういう事⁉誠一郎さんは誰と結婚したの⁉」

お母様の声が震えていた。

あれほど穏やかで優しかった方が、まるで別人のように私を見つめている。

「教えてちょうだい。こんなの、ひどいわ……!」

目元に手を当てたお母様の瞳から、大粒の涙が落ちる。

私を信じてくれていた――その信頼を裏切った痛みが、胸に刺さる。

もう、黙っているわけにはいかない。

「……私は、梨子の双子の妹、梨沙です。」
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