影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~

第九部 尋ね人

数日後、佐沼家の門前に一台の黒塗りの車が停まった。

「来たか……黒瀬の坊。」

軍三郎さんは軍帽をきっちり被り、軍服に身を包んでいた。その背筋は年齢を感じさせないほど、まっすぐだった。

私は緊張で喉が乾いたまま、襖の陰から二人を見つめていた。

「黒瀬誠一郎、参上しました。」

凛とした声。誠一郎さんが、深く一礼する。

「おお、よく来た。上がれ。」

「……梨沙さんは、こちらに?」

「そう焦るな。まずは――貴様に問いたい。貴様の妻は、誰だ。」

軍三郎さんの問いに、誠一郎さんは一瞬も迷わず答えた。

「梨沙です。高嶋梨沙。ただひとりの、俺の妻です。」

「ほう……ならば、なぜその妻を他家に戻した?」

「……私の力が足りなかった。守れませんでした。」

誠一郎さんが深く頭を下げると、軍三郎さんは頷いた。

「よし。ならば今一度、奪い返す覚悟はあるか。」

「はい。」

「ならば――今すぐここで、迎えに来い。」
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