明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第1章 軍服の青年との運命の出会い

その日、私は父と並んで街を歩いていた。

「雪乃、おまえもそろそろ見合いで着る着物を用意すべきだろう。」

唐突にそう言われ、思わず歩みが止まりそうになる。

女学校を卒業したばかりの私にとって、縁談の話は決して遠いものではない。

けれど、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。

父はいつも「女学校は花嫁修業のようなものだ」と言っていた。

確かに街の学校へ通わせてもらえただけでも幸せなのだろう。

けれど、それは「いずれ良縁を結ぶこと」が条件だったのだ。

私はまだ恋というものを知らない。

けれど、望もうが望むまいが、名家の娘としての未来は決められている。

良き相手と結婚し、家を守る――それが私の役目。

馴染みの呉服問屋に足を踏み入れた時、私は覚悟を決めていた。

運命の恋など、私には縁のないものだと。
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