明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第8章 見合いという名の婚約

そして、ついにお見合いの日がやって来た。

「雪乃、愛想だけはよくしてね。」

母は微笑みながら、私の帯を直してくれた。

「きっといい日になるわ。」

私は鏡に映る自分へ、ぎこちない笑みを浮かべてみせた。

――志郎さん以外の人と結婚を決める。

その日が今日。

胸が締めつけられるほど苦しいのに、私は今日で心を捨てると決めた。

「さあ、行きましょう。」

父の声にうなずき、母と共に足を進める。

用意された座敷に入ると、すでに几帳の向こうにお相手が待っていると告げられた。

障子を隔てただけの向こう側――そこに座る人は、知らない誰か。

畳を踏みしめる足が震える。

「大丈夫、大丈夫よ……」

自分に言い聞かせながら、私は父母に伴われて席へと進んだ。

「どうぞ。」

仲人の声に促され、顔を上げた瞬間――。

視線の先にいたのは、見慣れた軍服の姿だった。
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