明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第2章 偶然の再会

数日後。

私は母の用事に付き添い、再び呉服屋を訪れた。

暖簾をくぐると、女将さんがすぐに笑顔で迎えてくれる。

「あら、篠宮様。再びのお越し、ありがとうございます。」

「今度は母の着物をお願いしたくて。」

「まあ、それはそれは。奥様にお似合いの反物は、ちゃんと承知しておりますよ。」

女将さんは軽やかに奥へ下がり、母に似合う布を探しに行った。

母は店内をゆったりと眺めながら、品よく会話を交わしている。

私はといえば、胸の鼓動を抑えられなかった。

――もしかしたら、今日こそ。

あの日、すれ違ってしまった軍服の人に、また会えるかもしれない。

そう思うだけで、落ち着かず視線が何度も入口へ向かってしまう。

入ってくるのは常連客や見知らぬ人ばかりで、その姿はまだ見えない。

「雪乃、落ち着きなさい。」

母の声に我に返り、私は慌てて返事をした。

けれど心のどこかで、祈るように願っていた。

――どうか、この店に桐島中尉が現れますように。
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