明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第3章 両想いの確信

「雪乃、お願いがあるの。」

母がそう言って、財布を差し出してきた。

「この前の呉服屋さんに行って、お代を払ってきて欲しいの。」

「わ、私が?」

思わず聞き返す。いつもなら使用人に任せるはずなのに。

「それがね、良吉が今日は他のお店に行ってしまって。他の者では任せられないし。」

私は小さくため息をつき、母の手から財布を受け取った。

「……分かりました。この前の分だけでいいのですか?」

「ええ、それでいいのよ。」

母は何気ない顔で言ったけれど、私は心の奥がざわめいていた。

また、あの呉服屋へ。

――もしかしたら、桐島中尉に会えるかもしれない。

けれど、そんな期待をしてはいけないと自分に言い聞かせる。

前回だって待ちぼうけをしたばかりだ。

「お会いできれば」と仰ってくださっただけで、約束ではないのだから。

財布を握りしめながら玄関を出る。

胸の鼓動は、どうしても抑えられない。
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