明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第5章 結婚の誓い

それから私たちは、茶屋で会えば自然に肌を重ねるようになった。

「……ああん、志郎さん……」

「雪乃、放さないっ……!」

熱に溶け合うたびに、私たちはもう離れられないのだと確信した。

そんなある日のこと。

茶屋を後にし、私と別れて歩いていた志郎さんに、一人の女性が声を掛けた。

「あら、桐島中尉。お久しぶりだこと。」

艶やかな装いに、白粉をひいた顔。

私もその場に居合わせ、思わず足を止めた。

「桜奴……か。」

志郎さんの声が低く響いた。

桜奴――芸子さん?

聞き慣れない名前に戸惑う私をよそに、その女性は懐かしげに微笑んだ。

「まさか、こんなところでお会いするなんて。中尉、お変わりなく。」

二人の間に流れる空気が、私の胸をざわつかせる。

――この方と、志郎さんは……?

これまで感じたことのない不安が、心の奥に広がっていった。
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