明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第6章  隠された縁談

そんなある日のことだった。

「雪乃、話がある。」

父に呼ばれ、居間へと足を運ぶ。

畳に座った父の表情は厳しく、胸の奥がざわついた。

「おまえに……見合いの話が来ている。」

「……見合い?」

耳を疑った。

それはつまり、知らない誰かと結婚しろということなのだろうか。

「そ、そんな……」

声が震えた。

「お断りすることは、できませんか?」

父は困ったように眉をひそめ、深いため息をつく。

「見合い自体を断るなんて、聞いたことがない。」

「でもっ!」

思わず声を荒げる。

父の目が私を真っ直ぐに射抜いた。

「雪乃、これは家のためでもある。おまえ一人のわがままでは済まないのだ。」

――家のため。

その言葉に胸が締めつけられる。

私は唇を噛みしめ、視界が滲むのをこらえた。

志郎さんとの未来を、どうしても失いたくないのに――。
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