明治、一目惚れの軍人に溺愛されて

第7章 決別の影と激しい抱擁

しばらくして、父から呼び出された。

居間に入ると、父は盃を手にして上機嫌な様子だった。

「雪乃、結婚が決まったぞ。」

「ええっ⁉」

耳を疑い、思わず声を上げた。

――決まった?

まだお見合いもしていないというのに?

「ま、まだ顔を見合わせていないというのに、ですか?」

困惑して尋ねると、父はふっと笑った。

「顔合わせなんて必要ないだろう。家と家とが決めた縁組だ。それで十分だ。」

「そんな……」

息が詰まる。

私は、ただ流れに飲み込まれていくのだろうか。

父は上機嫌のまま、酒をぐいと煽った。

「いやあ、雪乃もついに嫁に行くのだな。おまえの母も喜んでいるぞ。」

――喜んでいる?

私の心はこんなにもかき乱されているのに。

拳を握りしめ、唇を噛んだ。

志郎さんとの未来を夢見ていたはずなのに、どうして。
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