子午線の下で―私の時間を見つける物語―

第九章 星を見る人たち

 観望会が終わり、参加者たちが帰り始める。

「楽しかったです」
「よく見えました」
 そんな声が、あちこちから聞こえる。
 柚月は、出口付近で軽く頭を下げていた。
「ありがとうございました」
それが、自然に口から出ていた。

 さっきの男の子が、出口の前で立ち止まっている。
 ノートを広げ、空を見上げている。
「木星、どこかな?」
 母親が、同じように空を見上げた。
 柚月は、その様子を少し離れた場所から見ていた。

 最後の一組が帰ると、屋上には静けさが戻った。

「お疲れさまでした」
星野さんが言う。
「……お疲れさまでした」
言葉にすると、少しだけ実感が湧く。

 片付けを手伝いながら、ふと声をかけられた。
「さっき、助かりました」
年配の女性だった。
「子どもが、すごく喜んでいて」
一瞬、何のことか分からなかった。
「順番を待っている間、声をかけてくれたでしょう」
「あ……はい」
「安心したみたいです。ありがとう」
その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。
 大げさではない。
 特別なことをしたわけでもない。
 でも、確かに、誰かの時間に触れた。
 星野さんが、少し離れたところから、その様子を見ていた。

 何も言わない。
 ただ、いつも通りの顔で、片付けを続けている。
 それが、ありがたかった。

 帰り際、夜空を見上げる。
星は、変わらずそこにある。
でも、今夜は、少しだけ違って見えた。
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