隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

52 終幕

「何よりも、そなたがその女の首をはねることをセイラは望まないであろうからな」

 国王の言葉が謁見の間に静かに鳴り響く。

(そう、私はそんなこと望んでいない)

 セイラは祈るような眼差しでガイズを見つめると、ガイズはセイラを見て奥歯を噛み締めて一瞬辛そうな顔をする。そしてすぐにまた国王へ視線を戻し、静かにお辞儀をした。

(よかった、思いとどまってくれたみたい)

 セイラがホッと胸をなでおろすと、隣にいたダリオスが一歩前に出る。

「元聖女ルシア、お前はさっきセイラを呪ってやると言ったな。どんな手を使ってでも引きずり降ろしてやると。だが、俺がそんなことは絶対にさせない。お前の呪いなど簡単に跳ね返してやる。セイラの纏う空気にさえ触れさせない。お前が何をしようと、俺が、そしてここにいる全員がそれを許さない。覚悟しておけ」

 地を這うような恐ろしく響く低い声でダリオスは宣言する。そのダリオスの声に続くように、国王もアルバートもバルトもクレアもガイズも、皆ルシアを睨みつけていた。

 恐ろしいまでの視線を一度に受けて、ルシアはもう一言も発することができず、ただ恐れおののき震えている。

 国王がバルトとガイズに視線を送り頷くと、二人はアレクとルシアを捕らえて、謁見の間から出ていった。

(終わったのね……)

 アレクとルシアの姿が見えなくなって、セイラは張り詰めていた気が緩んだのだろう、グラリと体勢を崩しそうになる。

「セイラ!」

 間一髪のところでダリオスがセイラを受けとめ腕の中に包み込む。

「っ、すみません」

(ダリオス様のぬくもり……暖かくて落ち着く……)

 セイラはすぐに自分の足でちゃんと立とうとするが、ダリオスの腕の中でどっと安心感が押し寄せてきた。そのあたたかさがじんわりと伝わってきてぼんやりとしてくる。

(だめよ、こんな時に気を失っている場合じゃないのに……)

 そのぬくもりに、その安心感に抗いたいのに抗えない。そしてそのまま、セイラは意識を手放した。


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