これは私が望んだ復讐です

26話 暴かれる不正

 
「いったいどういう事なんだ!」


 バタンと大きな音を立て、陛下が部屋に入ってきた。後ろにはお父様。そして着替えてきたオーエン様と、妹のシャルロットまでいる。


(あら、意外と早く来たのね。それにご丁寧に全員揃って登場とは。一気にお別れの挨拶ができて好都合だわ)


 私はひるむことなく、彼らをじっと見つめる。以前なら陛下の怒りように身を小さくしていただろうけど、今の私は睨み返すことができた。しかしそんな態度は、父にとって気に食わないものだったらしい。


「スカーレット! なんだその目つきは! 陛下に対して無礼だぞ!」


 シモン様からこの後に起こる事を知った今、父の言うことを聞く義理はない。私はそのままジロリと睨み返した。


「お、おまえというヤツは――!」
「侯爵! もういい。話が先だ」


 私に掴みかかろうとする父親の腕を止め、陛下はドサリと椅子に座った。父も私を睨みながら、渋々といった表情で座る。


(危なかったわね、お父様。私に手を出そうとすれば吹き飛ばされるところだったわよ?)


 実際に吹き飛ばされたオーエン様は、一触即発のその光景を見てビクビクとしていた。隣にいるシャルロットは豹変した私の態度に戸惑い、訝しげにこちらを見ている。


「それでいったいシモン殿とスカーレットが婚約というのは、どういうことだね」


 自分の計画を崩されたことに苛立っている陛下は、組んだ腕を指でトントンと叩き、シモン様に問いかけた。


「そのままですよ。スカーレットとオーエン様の婚約は破棄されました。殿下はそこにいるシャルロット嬢と婚姻を結ぶのでしょう? それならば彼女が私と婚約しても支障はないはずです」


 ニコリと笑うその笑みは、周囲を黙らせる。シモン様は出されたお茶を優雅に一口飲んだあと、また口を開いた。


「まさか妹の尻拭いをさせるために、スカーレットを王宮に閉じ込めておけばいいと思っているのですか? そんな非人道的なこと、陛下がなさるはずありませんよね?」


 その言葉にピクリと陛下が眉を動かしたが、さすがに表情を崩すことはなかった。その代わり怒り狂った父親が、椅子から立ち上がり叫び始める。


「そんな勝手な婚約、父親の私に話も通さずできると思うのですか! いくら貴方がカリエントの第一王子であろうと、筋を通してもらわないと! 大切な私の娘を簡単に国から出すことはできません!」


(大切な私の娘ね……。馬鹿馬鹿しい)


 もしかしたらこの流れは、陛下の予測どおりなのかもしれない。父親の後ろで、口の端を上げる陛下の顔がちらりと見えた。


「それにまだ書類上はスカーレットとオーエン殿下は婚約しております。まだ無効の手続きを取っていませんからな」
「ほう? それならシャルロット嬢はどうするのです? オーエン殿下の子を身籠っているのでしょう?」
「そ、それは……」
「ではどのみちスカーレットとの婚約は破棄されるのでしょう? それに――」


 スッとシモン様が立ち上がり、父親の前に立ちはだかる。大国カリエントの王族の威圧感に、侯爵である父親ですら一歩下がった。


「スカーレットはもう、君の娘ではないだろう?」
「――な、なに!?」


 一瞬ひるんだ父だったが、すぐさまシモン様に食ってかかる。


「何をおっしゃっているのか、わかりませんな! スカーレットは間違いなく私の娘です!」


 自信に満ちたその表情は、知らない人が見たら真実を言っていると思うだろう。しかしシモン様はそんな父親をフッと鼻で笑い、話を続ける。


「いいや、おまえは侯爵家を乗っ取ったのだ。元々侯爵家の正当な当主は、死んだスカーレットの母親。配偶者のおまえに権利は移らない。たとえ赤ん坊であっても、主亡き後は子供に権利がいくはずだ」


 シモン様がそう言うと、父親は「なんだ。そんな事ですか」と笑って否定した。


「それで私をお疑いに? その件でしたら、私は正当にスカーレットの母親から書類にサインを――」

「そのサインは偽物だ」
「なっ!」

「宰相殿、持ってきてくれ」


 突然シモン様がこの国の宰相を呼び出した。扉の前に居たのだろう。彼はすぐさま、何枚かの書類とサイン判別の道具を持って入ってきた。


「宰相! 何をしているのだ! なぜシモン殿下の命令を聞く!」


 ガタンと音が立つほど、陛下が乱暴に立ち上がった。それでも宰相は無言でシモン様の元に歩いていく。そして書類と道具を手渡すと、一歩後ろに下がった。


「ああ、彼は陛下たちを裏切ってはいませんよ。ただ私が侯爵の疑いを晴らしたいのなら、証拠になる書類を持ってきてほしいと頼んだだけです」


 宰相はその言葉に青ざめた顔でうなずいた。さっきまでの傲慢な態度がピタリと止まり、父親はぐっと拳を握っている。


「さて、これが侯爵がスカーレットの母から譲渡されたという権利書です。ここには陛下の印も入っていますね」


 カツンと靴音を立て、シモン様が父に一歩近づいた。二枚の紙をひらひらと顔の前で揺らされ、父は悔しそうに奥歯を噛みしめている。


「ではこの権利譲渡の書類と、登録してあるスカーレットの母のサイン。一致するか調べてみましょう」


 じりじりと獲物を追い詰めていくシモン様は、見とれてしまうほど美しい笑顔で笑った。
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