これは私が望んだ復讐です

36話 シモンが聖女を助けた理由

 
「本当だわ。黒かったはずなのに……」


 肩にかかる髪を一房手にとって見ると、あんなに黒かった髪がキラキラと光る「銀髪」に変わっている。


「いつの間にこんな髪色になったのかしら?」


 不思議に思って首をかしげていると、シモン様がしばらく考えた後、その問いに答えてくれた。


「おそらく、本来の治癒の能力を使ったから、魔力の巡りが良くなったのだろう。君の叔母上に聞いたところによると、産まれてすぐは黒髪じゃなかったらしい」

「そうだったのですか……あっ! そ、そうだわ! 叔母様は今どこに!」


 なんてことだ! 急な展開で母国シャリモンドを出ることになったので、すっかり叔母様のことを忘れていた! すぐに髪色よりも、叔母の安否のことで頭がいっぱいになる。


(まさかシャリモンドに置いてきてしまった? もしそうなら、王族や侯爵家に嫌がらせをされるかもしれないわ! 助けにいかなきゃ!)


 私があわてふためいていると、シモン様は安心させるようににっこり微笑む。


「大丈夫だ。実は君より先に、カリエントに向けて出発してもらっていたんだ。しかし私たちが転移で帰国したから、先に着いてしまったな。数日で国境を越えるだろうから、連絡が来たら転移で迎えに行こう」

「本当ですか! ありがとうございます!」


(良かった! あの国で私を支えてくれた唯一の人だもの。これもすべてシモン様のおかげだわ……)


 本当に私一人では、シャリモンド国を脱出することはできなかっただろう。私がホッと胸をなでおろすと、話を聞いていたカリナ様が口を開いた。


「数日後に到着なら、ちょうど良かったですわ。実は本日、学者達からあと十日ほどで嵐が来ると報告がありました。森でも鳥たちが北に逃げたようですし、今回はかなり規模が大きいみたいです」

「まあ! 嵐が!」
「ええ。でも対策を取る時間はありますし、毎年のことですから心配はいりませんわ」


 聞くと、この国では学者たちが天候を熱心に研究し、嵐の時期や進行方向を予測できるらしい。そのうえ地質学者が長年調査し、地盤の緩い土地への建築を許可しなかったりと対策は十分だそうだ。


「ですから、ここ五年は死者や大きな被害は出ておりません。時おり、暴風で飛んできた物で民家が壊れることはありますが、そういった被害には補助金を出しております」

「すごいですね……」


 国に結界がないぶん、知識を使って災害を未然に防いでいるなんて。それに万が一被害があっても保障されるなら、国民はきっと安心して嵐に対処できるはずだ。そしてその安心感は、王家への信頼につながっていく。


(これが本来の王族のあり方よね。贅沢三昧ではなく、国民を思ってお金を使ってる)


 自分が生まれ育ったシャリモンド国を考えると、比べるのもおこがましいくらいだ。カリエントの国王は、本当に素晴らしい。しみじみ「こちらに来て良かった」と考えていると、カリナ様がふふっと笑って話を続けた。


「実はこういった災害への取り組みは、シモンが提案して動いているんですよ」
「えっ! そうなんですか!」


 てっきりカリエントの陛下が主導しているのかと思っていた。シモン様はまだ若い。五年前から災害が減っているということは、それよりもっと前から調査を始めないと結果が出ていないだろう。


「いったい、いつ頃からされているのですか?」
「シモンが十歳の頃ですわ。その頃お忍びでよく他国に行っていたのですが、ある国から帰国したとたん張り切りはじめたのです」
「十歳!」


 私が驚いて振り返ると、シモン様はなんでもない様な顔で微笑んでいる。するとそんな態度を見てカリナ様はニヤリと笑い、シモン様をからかい始めた。


「な~にを格好つけているのです。シモンはスカーレット様が聖女として結界を守っているのを見て、自分も国のために頑張りたいと陛下にお願いしたのですよ」
「え? わたくし?」
「カ、カリナ!」


 シモン様はあわててカリナ様の口をふさごうと飛びかかったけど、彼女は私を盾にするように背中に回り込む。そしてクスクス笑いながら、過去のシモン様の行動を暴露し始めた。


「実は今回留学と称してシャリモンド国に行きましたのも、スカーレット様が冷遇されているという情報をつかんだからなんですよ! それで居ても立ってもいられないシモンは、聖女救出作戦に出たのです」

「えっ! そうなのですか?」
「はい。だってシモンの初恋は、スカーレット様なんですから」
「カリナ!」


 大声でカリナ様を止めるシモン様の顔は、耳まで真っ赤だ。しかもさっきの言葉を否定することもなく、そっぽを向いて黙っている。


(本当に? 本当にシモン様の初恋が私なの? でも私達、会ったことはなかったと思うのだけど……)


 信じられないという気持ちでぼうっとしていると、カリナ様が私の肩にそっとふれた。


「ではわたくしは、お二人のことを両陛下に報告してきますわ。その後はお部屋の準備をしてきますので、しばらくお二人でゆっくりお過ごしくださいませ」


 そう言ってカリナ様は部屋から出て行った。残ったのは、私とシモン様だけ。彼はさっきからなにも喋らず、私と目を合わせようとしない。それでもその理由はわかっている。


(少しは彼に愛されてるって、自惚れてもいいかしら……)


 私はゆっくりとシモン様に近寄り、勇気を出して彼の手を握った。
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