これは私が望んだ復讐です

38話 母国からの面白い話

 
「それにしても、北か……」
「シモン様、どうしたのですか? 北になにか?」


 あれから私たちは無事、両陛下への挨拶を終えた。お二人ともカリナ様との婚約が嘘だとわかっていたけれど、まだ若いし頑固な二人だったので黙って様子を見ていたそうだ。


(両陛下ともお優しくて、しかも歓迎してもらえて本当に良かった……!)


 私の存在がシモン様に良い影響を与えていたこともあって、お二人は大喜びしすぐに国内に発表することになった。国をあげての結婚式もするらしく、カリナ様はものすごく張り切っている。今日もドレス選びのため、私の前にはたくさんの美しい布が広げられていた。


「この前カリナからの報告にあっただろう? 嵐がくる前兆で、鳥達が北に逃げていると」
「ええ、そうでしたけど。気になるのですか?」
「うん……そうだな」


 シモン様は薄い金色の布地を私に当てると「これもいいな」と呟いている。そのぎこちない態度に私が首をかしげると、彼は少し意味深に笑い、先ほどの問いに答えた。


「風の流れがわかる鳥たちが北に逃げたということは、南に嵐が進むということだ。ここカリエント国から南にある国は……」
「わたくしの生まれ故郷、シャリモンドですわね」


(なるほど、そういうことか。嵐はあと数日でカリエントに到達するようだけど、その後は私の母国に向かうのだろう)


「スカーレットが国を出て早速、最初の試練が彼らに訪れるとは。意外と早かったな」
「そうですね。でもきっと陛下がどうにかされますわ。結界に興味がないようですし、自分の能力に自信がおありでしたから」


 私はフンと鼻を鳴らし、悪女の顔で笑う。シモン様に愛されて幸せになったら、もう彼らへの復讐はどうでも良くなるかと思ったけど別のようだ。


(さあ、陛下。お手並み拝見ですわ……)


 私はニヤリと笑うと、白地に刺繍が美しい布を手に取った。その様子を見てシモン様は「その悪女の顔も愛しているよ」と豪快に笑った。


 ◇


 それからは忙しい毎日だった。叔母様も無事カリエントに着き、両陛下の計らいで王宮に部屋を用意してもらえることになった。特別に貴族籍も与えられ、王太子妃になる私にも自由に会うことができる。


「本当にすべてシモン様のおかげです。ありがとうございます」
「気にしないでいい。ああ、そうだ。国を出る前、王宮に集まった民衆を覚えているか? 彼らも家族を連れて、早速カリエントに来たらしい」
「まあ! そうなのですか!」


 聖女信仰に厚く、私の頑張りを認めてくれた人たちだ。捕まる恐れもあるのに、私のために王家に抗議までしてくれた。


「彼らには教会の職員になってもらう予定だ。君の能力はいずれ国中に知れ渡るだろう。きっとその時に人手が足りなくなる。彼らも職が見つかって喜んでいたよ」


 私のことをよく知っている彼らが教会にいるならとても心強い。それに私の治癒の力が必要な時があれば、惜しみなく使いたいと思っていたのだ。シモン様はそんな私の気持ちもお見通しなのだろう。


「ありがとうございます。嵐が過ぎたら一度教会に行こうと思います」
「ああ、みんな喜ぶと思うぞ。ああ、そうそう。君が傷を治したランディから面白いことを聞いたんだ」
「面白いこと、ですか?」


 ランディは敬語は使えないけれど礼儀正しい人だ。この国の王子であるシモン様に、気軽に冗談を言うわけがない。何を言ったか見当もつかず黙っていると、シモン様はククッと喉を鳴らして笑い、私を指差した。


「君の予言が当たったらしいよ」
「わたくしの予言?」
「ああ、君は皆の前で『新しい聖女が降臨する』と言っただろう。あれだよ」
「えっ! もう?」


 私のあきれた顔に、シモン様は笑いをこらえている。たしかに私はあの日、わざと「陛下たちが本当に聖女の力を信じているなら、新しい聖女が降臨する」と言った。しかも集まった人に聞こえるように。


(陛下たちをひざまずかせるための罠だったのだけど、こんなに早く引っかかるとは……。本当に彼らはわかりやすいわね)


 私はふうっとため息を吐きお茶を一口飲むと、シモン様のほうを振り返る。


「そうですか。やはり陛下は妹のシャルロットを新しい聖女にしたのですね」


 ニコッと笑ってそう言うと、シモン様はハハハと笑って私の肩を抱き寄せた。

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