これは私が望んだ復讐です
47話 断罪の舞台
「あの方がスカーレット様を馬鹿にしていた元婚約者ですか。シモンに比べればひ弱そうな方ですわね」
逃げるように私の前から去って行ったオーエン様を見て、カリナさんはフンと鼻で笑った。私の侍女として一緒に来た彼女だけど、存在感がすごくて彼女のほうが聖女に見えるかもしれない。
「あの驚きようは面白かったな。それにしても、あの態度。やはりスカーレットとまだやり直せると思っていたみたいだ」
「本当ですわね。スカーレット様をうっとり見つめて、いやらしいったらありませんわ! でも二人の結婚を知った時の顔! シモンが先手を打って、異例の速さで結婚したかいがありました」
二人の話す声は周囲に丸聞こえで、近くにいる王宮の騎士や侍女たちは困った顔をしている。もちろんそれはシモン様たちもわかっているというか、わざと聞かせているので止めようがない。
「本当に愚かな王子だこと。ああいう自分が正義だと信じ切った人には何を言っても無駄ですわね」
「ああ、今度無理やり即位するらしいが、どうなることだろうな」
オーエン殿下から「シャリモンドに戻ってきてほしい」という手紙を受け取ってからというもの、二人の怒りは最高潮になっていた。
(まあ、かなり身勝手な手紙でしたものね……)
結界が壊れたことで嵐の被害が大きかったこの国は、そうとう荒れたらしい。怪我だけじゃなく劣悪な環境で病気も蔓延し、それでも何も対処しない王家に一気に不満が押し寄せたのだろう。
一人では対処できなくなったオーエン様からの手紙は、とても不愉快なものだった。
「君の聖女としての能力を認めてあげる」
「母国を救うのが聖女の務め」
「君は優しいからシャルロットに気を使っているのだろうが、彼女は父親と一緒に牢屋に入れた」
「二人で素晴らしい国を作り上げていこう」
一緒に読んでいたカリナさんが、手紙を破り捨てようとしたくらいだ。早く返事をと急かす言葉もあったけれど、まるで自分だけは悪くない、といった内容で返事をする気にもなれなかった。
(まあ、その間ゆっくりドレスを選びましたけど……)
シモン様の助言で婚姻の儀だけを先にすませ、私は無事に彼の妃になった。カリエント国の王太子妃となったお祝いは、この問題が解決してから国で盛大にすることになっている。今頃、カリエントではお祭りの準備で大忙しだ。
「ランディは大丈夫? つらくない?」
シモン様の後ろで教会の服を身にまとったランディをチラリと見ると、少し不安そうな顔をしていた。彼は私の治癒の力を覚醒させるきっかけになった人だ。私への忠誠心が強く、献身的に働くので今回一緒に連れてきている。
「はい! 大丈夫です。ただここまで荒れていることに驚いてしまって……」
「そうよね……」
私もランディの言葉に素直にうなずく。それほど昔のシャリモンドを知っている私たちにとって、今の状況は悲しいものだった。
この国に来る道中、視察がてら馬車から国の様子を見たのだけど、それはもう酷かった。あんなに素晴らしかった小麦畑も、美しい牧草地も流されていた。道端には家を無くしたのかボロボロの服で座り込む人々も多く、馬車の中にまで悪臭が入ってくるほどだった。
(王家や司教様は別として、罪のないシャリモンドの国民は救ってあげたい……)
改めてそう決意して王宮に来たのだけど、あのオーエン様の脳天気な顔にはガッカリさせられたわ。睨みつけると怯えて逃げていったけど、まだ昔の私だと思っているようね。
(これから国民の前で断罪されるとも知らずに……)
私を馬鹿にし虐げてきた人達の罪が、大勢の人の前で晒される。その瞬間がもうそこまで来ている。そう思うと、私の顔も自然と笑顔になっていった。
私もだいぶ悪女ぶりが板についてきたわね。彼らが苦しむのになんの罪悪感もないし、むしろ楽しみだもの。
「いい笑顔だな」
その言葉に思わず振り返ると、シモン様がニヤリと笑って私を見つめていた。そして自分の胸に私を引き寄せ、楽しそうにこれから起こる出来事を待っている。
(本当にシモン様には感謝しかないわ。こんな私を愛してくれているなんて……)
普通なら怖がられてしまうだろうこんな復讐心も、シモン様は受け入れてくれる。私は彼の胸でほうっと息を吐くと、緊張がほぐれていくのがわかった。
「さあ、スカーレット。君の復讐の舞台が整ったようだぞ」
嬉しそうにそう話すシモン様の声に、顔を上げた。目の前には四人の男と、一人の女。この国の陛下とオーエン殿下。教会の司教様と、私の元父親の侯爵。そして妹のシャルロット。
それぞれが私に対して、いろんな表情を浮かべている。憎々しげに見る顔。オドオドとした表情。
私はそれを目を背けることなく、じっと見つめていた。
逃げるように私の前から去って行ったオーエン様を見て、カリナさんはフンと鼻で笑った。私の侍女として一緒に来た彼女だけど、存在感がすごくて彼女のほうが聖女に見えるかもしれない。
「あの驚きようは面白かったな。それにしても、あの態度。やはりスカーレットとまだやり直せると思っていたみたいだ」
「本当ですわね。スカーレット様をうっとり見つめて、いやらしいったらありませんわ! でも二人の結婚を知った時の顔! シモンが先手を打って、異例の速さで結婚したかいがありました」
二人の話す声は周囲に丸聞こえで、近くにいる王宮の騎士や侍女たちは困った顔をしている。もちろんそれはシモン様たちもわかっているというか、わざと聞かせているので止めようがない。
「本当に愚かな王子だこと。ああいう自分が正義だと信じ切った人には何を言っても無駄ですわね」
「ああ、今度無理やり即位するらしいが、どうなることだろうな」
オーエン殿下から「シャリモンドに戻ってきてほしい」という手紙を受け取ってからというもの、二人の怒りは最高潮になっていた。
(まあ、かなり身勝手な手紙でしたものね……)
結界が壊れたことで嵐の被害が大きかったこの国は、そうとう荒れたらしい。怪我だけじゃなく劣悪な環境で病気も蔓延し、それでも何も対処しない王家に一気に不満が押し寄せたのだろう。
一人では対処できなくなったオーエン様からの手紙は、とても不愉快なものだった。
「君の聖女としての能力を認めてあげる」
「母国を救うのが聖女の務め」
「君は優しいからシャルロットに気を使っているのだろうが、彼女は父親と一緒に牢屋に入れた」
「二人で素晴らしい国を作り上げていこう」
一緒に読んでいたカリナさんが、手紙を破り捨てようとしたくらいだ。早く返事をと急かす言葉もあったけれど、まるで自分だけは悪くない、といった内容で返事をする気にもなれなかった。
(まあ、その間ゆっくりドレスを選びましたけど……)
シモン様の助言で婚姻の儀だけを先にすませ、私は無事に彼の妃になった。カリエント国の王太子妃となったお祝いは、この問題が解決してから国で盛大にすることになっている。今頃、カリエントではお祭りの準備で大忙しだ。
「ランディは大丈夫? つらくない?」
シモン様の後ろで教会の服を身にまとったランディをチラリと見ると、少し不安そうな顔をしていた。彼は私の治癒の力を覚醒させるきっかけになった人だ。私への忠誠心が強く、献身的に働くので今回一緒に連れてきている。
「はい! 大丈夫です。ただここまで荒れていることに驚いてしまって……」
「そうよね……」
私もランディの言葉に素直にうなずく。それほど昔のシャリモンドを知っている私たちにとって、今の状況は悲しいものだった。
この国に来る道中、視察がてら馬車から国の様子を見たのだけど、それはもう酷かった。あんなに素晴らしかった小麦畑も、美しい牧草地も流されていた。道端には家を無くしたのかボロボロの服で座り込む人々も多く、馬車の中にまで悪臭が入ってくるほどだった。
(王家や司教様は別として、罪のないシャリモンドの国民は救ってあげたい……)
改めてそう決意して王宮に来たのだけど、あのオーエン様の脳天気な顔にはガッカリさせられたわ。睨みつけると怯えて逃げていったけど、まだ昔の私だと思っているようね。
(これから国民の前で断罪されるとも知らずに……)
私を馬鹿にし虐げてきた人達の罪が、大勢の人の前で晒される。その瞬間がもうそこまで来ている。そう思うと、私の顔も自然と笑顔になっていった。
私もだいぶ悪女ぶりが板についてきたわね。彼らが苦しむのになんの罪悪感もないし、むしろ楽しみだもの。
「いい笑顔だな」
その言葉に思わず振り返ると、シモン様がニヤリと笑って私を見つめていた。そして自分の胸に私を引き寄せ、楽しそうにこれから起こる出来事を待っている。
(本当にシモン様には感謝しかないわ。こんな私を愛してくれているなんて……)
普通なら怖がられてしまうだろうこんな復讐心も、シモン様は受け入れてくれる。私は彼の胸でほうっと息を吐くと、緊張がほぐれていくのがわかった。
「さあ、スカーレット。君の復讐の舞台が整ったようだぞ」
嬉しそうにそう話すシモン様の声に、顔を上げた。目の前には四人の男と、一人の女。この国の陛下とオーエン殿下。教会の司教様と、私の元父親の侯爵。そして妹のシャルロット。
それぞれが私に対して、いろんな表情を浮かべている。憎々しげに見る顔。オドオドとした表情。
私はそれを目を背けることなく、じっと見つめていた。