これは私が望んだ復讐です

49話 断罪の始まり

 
「聖女様!」
「スカーレット様!」

 広場には興奮ぎみに私の名を呼ぶ人々で溢れかえっている。そんななか、私を国から追い出したと言われている彼らが姿を現したらどうなるか。その結果は言うまでもない。

「オーエン殿下じゃないか!」
「陛下もいるぞ! 引っ込め!」
「あれは司教じゃない? あの人もスカーレット様を虐めたらしいわよ!」

 最初にオーエン様が舞台に上がっていくと、予想どおり集まった人々からは罵声が飛び交い始める。そしてその後に陛下、司教様と続くとさらに民衆の怒りはふくれあがり、舞台に向かって物を投げる者も出始めた。

「な、なんだ! この騒ぎは! 騎士団長は何をしている!」

 どうしてこんなに国民が怒り狂っているのかわからない陛下の指示は、誰も聞きやしない。それどころか司教様ですら呆れた顔をしていた。

(司教様は教会を襲撃されているから、少しはわかっているみたいね)

 シモン様の情報によると、結局教会の彼の私室まで襲われたらしい。教会も今では家を無くした人達の避難所になっていて、司教様は王宮に逃げ込んだという。

 私はそんな騒ぎを横目に、優雅に階段を登っていく。シモン様にエスコートされながら舞台の中央に向かうと、私の姿に気づいた人達が「わああ」と歓声を上げ始めた。

「スカーレット様だ!」
「聖女様!」
「でも髪が黒くないぞ。あれは本当に聖女様か?」
「お顔は同じよ。でも前より顔色が良いわ。やっぱりこの国ではひどい扱いを受けてたのね!」

 あっという間に怒号は喜びの声に変わり、民衆の興奮は最高潮になった。それでも私がサッと片手をあげると、一気に場が静まり返る。

 そのまままた一歩前に出て、私は悲しげな表情で話し始めた。

「皆さん。スカーレットです。わたくし、母国シャリモンドが嵐の被害にあったと聞き、心配で駆けつけて参りました」

 広場中がドッと拍手と歓声で湧き、私はその中心でにっこりと微笑んだ。それでも実際に集まった人を見ると、みんな服も汚れ怪我をしている様子だ。

(もう少し待っていてくださいね……)

 私のそのたった一言で、泣き始める女性もいる。それほど彼らにとってこの嵐はつらかったのだろう。私がその女性に向かって微笑みかけると、隣にいた夫らしき男性が必死の形相で叫びだした。

「せ、聖女様! 聖女様はこの国に戻ってきてくれたのですよね! ずっとシャリモンドにいるんですよね?」

 その言葉に周囲の期待の目が私に降り注ぐ。涙目で訴えかける彼らの願いに応えられないのはとても悲しいけれど、私は皆に見えるように首を横に振った。

「ごめんなさい。わたくしはもうこの国を追い出され、カリエントの王太子妃となりました。私の生きる場所はカリエントであり、シャリモンドではないのです」

「そ、そんな……!」

 私の返事に「ああ……」と落胆の声が広場に響き始める。しかしすぐにその悲しい気持ちは、王族への怒りへと変わっていった。

「オーエン殿下のせいだ! この浮気者! おまえがスカーレット様の妹を妊娠させたのは知ってるんだ! そのうえスカーレット様にも手を出そうとしたと聞いたぞ!」

「陛下もだ! 聖女様は王家が守らないといけないのに! 王宮に閉じ込めて逃げ出さないようにするところだったらしい!」

「教会の連中もそうだ! 自分たちばかり良い生活をして、スカーレット様はボロボロだったらしいぞ!」

 普段なら王族に対してのこのような暴言は許されない。すぐに騎士が捕縛してもおかしくないけれど、オーエン殿下はオロオロするばかりで動けないようだ。

 真っ青な顔で「な、なぜ知られているんだ」とぶつぶつ呟いている。陛下も司教様も苦々しい顔をして、後ろに下がっていく。

(これも作戦どおりね。数日前にシモン様が今までのことを噂として流したようだけど、オーエン様達は気づかなかったようね)

 民衆達はそれぞれ聞いたことを確かめ合うように、さらに噂を叫び続ける。

「しかも王家はスカーレット様に謝ってないんだと!」
「俺は聖女様のこともニセモノ扱いして馬鹿にしたって聞いたぞ!」
「それは本当のことなんですか! スカーレット様!」

 あちらこちらから「本当のことを教えて下さい」という声が聞こえ、私は意を決した表情をして前を見つめる。

「……もうここまで知られていたら、隠すのもかえっておかしいですわね。ええ、皆さんが聞いたとおりですわ。わたくしは婚約者のオーエン殿下に裏切られ、そして陛下にはニセモノの聖女だと笑われました」

「やっぱり!」
「なんてひどい!」

 再び集まった者たちから罵声が王族に向けられる。すると今まで黙って聞いていた陛下が、ツカツカとこちらに向かってこようとした。しかしその瞬間。

「スカーレット、過去を話すのはつらかっただろう。ここからは私が話そう」

 近くにいたシモン様がそっと肩を抱き寄せ、優しく微笑んだ。もちろんこれも作戦どおりだ。彼いわく「スカーレット本人がずっと説明すると、それを陛下や司教が否定してきて言い合いになるだけだから」という理由からだ。

(本当にシモン様は先手を打つのがうまいわ。今だって陛下はシモン様が出てきたとたん、足を止めたもの)

 もちろん前回シモン様に追求されたこともあるけれど、陛下は女性を下に見ている。私なら言いくるめられると思っているのだ。

 私はシモン様の指示に従い、うなずくと、彼は前に出て、よく通る声で話し始めた。

「私はカリエント国、第一王子のシモンだ。そして聖女スカーレットの夫でもある。今日はスカーレットが君たちを救いたいというたっての希望で一緒に来たが、私はシャリモンドの王族に約束を守ってもらうための立会人として来た」

 突然のシモン様の発言に、目の前の民衆たちはざわざわと話し出す。そしてそれが静まった頃、シモン様は周囲を圧倒するような声で宣言する。

「シャリモンド国の王族と教会、そしてスカーレットの家族が彼女にした罪はまだある。そして今回スカーレットがこの国に戻るには約束があったのだ。王族はその約束を破ろうとしている!」

「なに!」
「なんてことだ!」

 その言葉は集まっている人々の怒りを煽っていき、再び怒号が飛び交い始める。背後からは「ひっ!」という司教様の声が聞こえ、怯えているのがわかった。

 そしてオーエン様は青白い顔で立ちつくし、陛下はギリギリと歯を食いしばるようにこっちを睨んでいる。それでも私は睨み返す余裕すらあった。シモン様が一緒だ。怖くない。

 そしてシモン様はそんな陛下たちを鼻で笑うと、大きな声で話し始めた。

「まずは私が見たこの国の現状をお伝えしよう」

 そう言うと、彼はニヤリと笑った。
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