これは私が望んだ復讐です

51話 追い詰めるシモンの策略

 
「実の家族?」
「そんなことあるのか?」
「本当ならひどすぎるわ……!」


 シモン様の発言に周囲はざわざわと騒ぎ始める。他人である教会や王族が虐げていたというのはまだ理解できても、まさか家族から虐められているとは思いもよらなかったのだろう。


 しかし数人の男性があることに気づき、ハッと顔をあげた。


「そういえばオーエン殿下の浮気相手は、スカーレット様の妹だ!」
「しかし妹が姉の婚約者を奪うなんて、まともな父親なら許さないだろう?」
「もしかして、それを許したのか?」


 その声はすぐに周囲に届き、シモン様が話す前に私の家族の所業が広まっていく。それでもまだ父がしたことはその噂よりひどいのだ。シモン様は最初に気づいた男たちの前に行くと、にっこり笑って話しかけた。


「いいところに気づいてくれたな。しかしスカーレットにしたことは、もっと残酷だ。彼女の父親は本来の当主であるスカーレットから侯爵家を乗っ取り、あそこにいる姉の婚約者を寝取った妹のシャルロットに譲る気だったのだ。聖女であるスカーレットを、貴族から平民の孤児にさせてまでな」


 シモン様が睨みながらシャルロット達を指差すと、妹は突然の展開にビクリと体を震わせた。一気に自分に敵意が向けられ、妹はオロオロと目を泳がせる。


「ち、ちが……」


 しかしそこはシャルロットだ。父親が言い訳を作る前にポロポロと大粒の涙を流し、民衆に訴えかけ始めた。


「違いますわ! わたくしはただ、オーエン様に求婚されただけです! お姉様は殿下を嫌っていました! だから私とオーエン様こそが真実の愛で結ばれているのです! 侯爵家のことも、わたくしは何も知りません!」


 ドレスは薄汚れているけれど、それがいっそう可憐で儚げに見える。それを理解しているのだろう。シャルロットはワアワアと大きな声で泣き始め、周囲の同情を買うつもりらしい。


「え? そうなのか? たしかにスカーレット様と殿下は政略結婚が目的らしいけど……」
「聖女様とは十歳で婚約してるしな」
「じゃあ、殿下と妹は愛し合ってしまっただけか?」
「妊娠して強行突破したってことかもしれんな」


 貴族と違い自由恋愛の彼らにとって、真実の愛だと言われればそちらのほうがわかりやすいのだろう。チラホラと「それならしょうがないか」という声も出てきた。


「わたくしは本当になにも知りません! お姉様がもっとオーエン様を愛してあげていれば、わたくしだってぇ……」


 ひっくひっくとしゃくり上げながら泣くシャルロットの手の隙間から、ニヤリと笑う顔が見える。すると突然オーエン様が妹の手を取り、二人で前に飛び出してきた。


「そうだ! 私たちは浮気などではない! スカーレットはいつも私に冷たく、むしろ浮気をしていたのは彼女のほうだ! シモン殿下とすぐ婚約するなどおかしいと思わないか? 二人は私を裏切り通じ合っていたのだ!」


 目をギラギラさせオーエン様はそう言うと、ニヤリと笑った。どうやらシャルロット側について、自分の悪い噂を塗り替えるつもりらしい。妹も切り替えが早い。どうやらオーエン様が味方につけば、また王妃の座につけると思ったようで嬉しそうにしている。


(本当に調子が良い二人ね。それに自分の都合の良いことしか覚えてないから、後で大変なことになるって学習しないのかしら?)


 二人の幸せそうな姿に、集まっている人達は少しずつ真実味を感じてきたらしい。今度は「お似合いの二人に見えるわ」「そうだな。無理やり結婚させられるのはつらいからな」など、二人の作戦通り同情を買っていた。


 私は「はあ……」と大きくため息を吐き、シモン様に視線を送った。彼もここまで予想通りの行動をすると、かえって申し訳ない気になるのかもしれない。しばらく複雑な顔で二人を眺めていたが、すぐにどこかに合図を送った。


 するとその合図をきっかけに、十人ほどの女性達が舞台に上がってきた。皆、どことなく品があり、見覚えのある顔だ。


 そして先頭の女性がオーエン様とシャルロットを指差し、民衆に向かって大きな声で話し始めた。


「わ、私は、王宮の侍女をしていたキルムです! 私は何年も前から夜にこのお二人が同じ部屋に入るのを見ています!」


 緊張しているのだろう。顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、ヨロヨロと後ろに下がっていく。そしてその発言に続くように、今度は別の女性たちも前に出てきた。


「私もです! 二人が庭で抱き合ってキスしているのを見ました!」
「それにシャルロット様は、他の男性とも関係を持っています!」
「お二人はそのことで大喧嘩をし、殿下は復讐のためシャルロット様を牢屋に入れています! 真実の愛なんかじゃありません!」


 あわてたのはオーエン殿下だ。女性たちを止めようと前に出たが、すぐにカリエントの騎士に捕まり止めることができない。


「な、何を言って……! ち、違う! こんなやつらは王宮にはいない! 皆! 信じないでくれ!」


 しかしその後も続々と王宮に勤めていた人達からの証言が集まっていき、もう先ほどの殿下達の話を信じる者はいなくなっている。むしろ堂々と国民に嘘をついたことで、呆れ返っていた。


「ち、違う……これは、その……違う……」


 殿下はあっという間に自分たちの作戦が失敗に終わり、真っ青な顔でなにかモゴモゴと言っている。その隣でシャルロットは血で赤く染まるほど唇を噛み締め、悔しそうに地面を睨んでいた。


(さっさと罪を認めて謝罪してくだされば、ここまで暴露しなかったのですけど……)


 もちろんこの証言もシモン様の作戦だ。最近まで王宮で働いていた職員を探し出し、証人として発言してほしいと手配したのだ。もちろんこの後、彼女たちはカリエントの王宮で働くことになっている。


「うまくいったな」
「ええ。後はあの二人だけですわ」


 そう言う私の視線の先には、実の父親と陛下がいる。シモン様は彼らに向かってニヤリと笑うと、軽快な足音で近づいていった。そしてくるりと二人に背を向けると、広場に向かって話し始める。


「皆、これでわかっただろう。王族やスカーレットの家族がどれだけ自分勝手な者たちか。そしてその中でもこの二人、彼女の実の父とこの国シャリモンドの王は、二人で結託し聖女から貴族の身分を奪った!」


 鋭い眼光で二人を睨みつけるシモン様は、一歩彼らに近づく。ジャリッという砂を踏んだ足音が聞こえるほど広場は静まり返り、みな固唾を呑んで見守っていた。


 その静かな怒りを含んだ威圧感に父は悔しそうに一歩下がり、シモン様は追い詰めるようにさらににじり寄る。そのままあと少しで舞台から落ちてしまうのではないかと思った瞬間。


 わめき散らすような叫び声が、広場に響いた。

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