悪魔の娘が帰還するまでーささやかな復讐と聖女の称号を添えてー
第十七章:黒い羊皮紙
そして──ある夜。
オリヴィアの机には、あの黒い羊皮紙があった。
今日は遂に魔界の医療魔術で誤魔化し続けていた反動が来て村へ行けず、シャーロットに部屋に軟禁されていた。
休んでいたおかげで、少し体力が回復し、ようやくこれを調べられるようになった。
「真っ黒ね、プレゼントと言っていたけれど……悪魔の贈り物は慎重に扱わないと……」
何か仕掛けがある筈だ。ここは魔界ではないし、フィンレイは悪魔でオリヴィアは人間だ。
うっかり悪魔の誘惑に誘い込まれてはたまらない。
気にはなっていたが、後回しにしていたのはこれが原因だった。
(悪魔の誘惑は仕事だから仕方ないけど、この身体で警戒魔術を展開しながら調査するのは、魔力と体力を使いすぎる……)
「早めに良い結果が出て来ますように…。変な罠じゃありませんように…」
呪い除けを展開しながら、思い当たる呪文を唱えたり、地下で見つけた呪術用の石や呪具を置いたり翳したりしてみる。
そして触れるのは怖いが、ゆっくり撫でてみると、絶望を集めた指輪の石が光り、強く反応した。
(ーー何⁉︎)
羊皮紙が風に吹かれたように光と共に空中に舞い、そして白い蝋を垂らすようにどろりと、文字と地図を描いた。
強い欲望を抱く者。対象、場所(跳躍はこちら)、業の内容。
これは、悪魔に仕事道具の一つ。誘惑先のリストと跳躍地図を合わせたものだわ……!
それも既に余程の悪事を働いている者に厳選されている。この者たちが何らか特別な目的で悪事を働いたのでなければ、確実に、相応の代償を払わなければいけない契約を結ばされるだろう。
だがーー。
(残念なことに悪魔の数は足りない)
文字を詳しく追えば分かる。これは恐らく悪魔が訪れるより先に、対象の人間の寿命が尽きてしまう。
「贄に悪魔の代償を肩代わりさせたから理屈は通る。……でもこんな悪事を働いておいて、悪魔の課題なしに贅沢だけが出来るなんて……」
オリヴィアは、躊躇いなく(跳躍はこちら)の文字の一つに触れた。そして虫の鳴き声も聞こえぬ草原に一人立ち、羊皮紙の白い文字がそこに行けと言うように道筋を示すのを見ると、歪に笑いながら夜空を見上げた。
「手伝ってあげるわ、フィンレイ……あなたの手が回らない仕事を」
そして。
その様子を、遠くの木の上から静かに見下ろす人影があった。
「本当に自力で魔界に帰るつもりか。可愛くないなあ…。どこまで出来るかねぇ」
フィンレイは微笑んだ。
その目は猛禽のように、金色の光を湛えて闇に浮かび上がっていた。
オリヴィアの机には、あの黒い羊皮紙があった。
今日は遂に魔界の医療魔術で誤魔化し続けていた反動が来て村へ行けず、シャーロットに部屋に軟禁されていた。
休んでいたおかげで、少し体力が回復し、ようやくこれを調べられるようになった。
「真っ黒ね、プレゼントと言っていたけれど……悪魔の贈り物は慎重に扱わないと……」
何か仕掛けがある筈だ。ここは魔界ではないし、フィンレイは悪魔でオリヴィアは人間だ。
うっかり悪魔の誘惑に誘い込まれてはたまらない。
気にはなっていたが、後回しにしていたのはこれが原因だった。
(悪魔の誘惑は仕事だから仕方ないけど、この身体で警戒魔術を展開しながら調査するのは、魔力と体力を使いすぎる……)
「早めに良い結果が出て来ますように…。変な罠じゃありませんように…」
呪い除けを展開しながら、思い当たる呪文を唱えたり、地下で見つけた呪術用の石や呪具を置いたり翳したりしてみる。
そして触れるのは怖いが、ゆっくり撫でてみると、絶望を集めた指輪の石が光り、強く反応した。
(ーー何⁉︎)
羊皮紙が風に吹かれたように光と共に空中に舞い、そして白い蝋を垂らすようにどろりと、文字と地図を描いた。
強い欲望を抱く者。対象、場所(跳躍はこちら)、業の内容。
これは、悪魔に仕事道具の一つ。誘惑先のリストと跳躍地図を合わせたものだわ……!
それも既に余程の悪事を働いている者に厳選されている。この者たちが何らか特別な目的で悪事を働いたのでなければ、確実に、相応の代償を払わなければいけない契約を結ばされるだろう。
だがーー。
(残念なことに悪魔の数は足りない)
文字を詳しく追えば分かる。これは恐らく悪魔が訪れるより先に、対象の人間の寿命が尽きてしまう。
「贄に悪魔の代償を肩代わりさせたから理屈は通る。……でもこんな悪事を働いておいて、悪魔の課題なしに贅沢だけが出来るなんて……」
オリヴィアは、躊躇いなく(跳躍はこちら)の文字の一つに触れた。そして虫の鳴き声も聞こえぬ草原に一人立ち、羊皮紙の白い文字がそこに行けと言うように道筋を示すのを見ると、歪に笑いながら夜空を見上げた。
「手伝ってあげるわ、フィンレイ……あなたの手が回らない仕事を」
そして。
その様子を、遠くの木の上から静かに見下ろす人影があった。
「本当に自力で魔界に帰るつもりか。可愛くないなあ…。どこまで出来るかねぇ」
フィンレイは微笑んだ。
その目は猛禽のように、金色の光を湛えて闇に浮かび上がっていた。