悪魔の娘が帰還するまでーささやかな復讐と聖女の称号を添えてー

第三十八章:待ち望んだ帰還

 最果てで、温もりが待っていた。
抱きとめる腕。
 決して太くはないのに、世界を丸ごと受け止められるような、大きな安心を与える腕だった。

 「……戻ってきたのね」
 ノクティレアがいた。
 闇の中できらりと光る赤の瞳、夜より深い黒髪が頬に触れ、ほんのすこし甘い匂い――幼い日に胸の奥へしまい込んだ記憶が、ふっと開く。

 彼女は震えるオリヴィアの頬を優しく撫でて、固く抱きしめ、頬を寄せる。

「ーーっ母さん……‼︎」
 
 ノクティレアは頷き、泣いた。
  「よく生きて、よく抗った。おかえり、私の大事な娘」

 胸に引き寄せられた瞬間、抑えていた涙が堰を切った。
 「母さん……!母さん……‼︎」
 嗚咽が止まらない。オリヴィアは幼い日のようにしゃくり上げて泣いた。肩が震え、喉が詰まる。誇りも矜持も、そんなことはどうでも良かった。

 ノクティレアは黙って頷き、オリヴィアの額に優しくキスをした。
 オリヴィアが胸の奥に溜め込んでいた後悔や怒り、孤独や誇りがすべて解けていくのを感じた。

 (やっと……帰れた……)

 疲れ果てていた、けれど母の腕の中はあまりに暖かかく優しかった。

「ずっと帰りたかったの!ずっと会いたかった!母さん!私また捨てられて殺されたの!私…私……凄く頑張って……でも、あぁああああ!!!!」

 オリヴィアは声を枯らして泣き、涙で濡れた顔を隠すこともせずに、ただ母の胸に縋り続けた。

ノクティレアはずっとオリヴィアの頭や背中を撫でて話を聞いていた。

「頑張ったね、辛かったね、オリヴィア。あなたは私の自慢の娘……」
ノクティレアは一緒に泣いて、肩を震わせながら、オリヴィアを固く抱きしめた。

「もう絶対に離さない……!辛い目には合わせないからね!」

「愛してるよ」

◇◇◇

 その頃、地上では、儀式の余波で怪我をした使用人が表に助けを求めて飛び出していた。

 王太子とアイラが“何か”をした。エルフォード家の地下で。悲鳴がした。血の匂いがした。

噂が瞬く間に広がった。

 誰かが言った。「聖女殿に何かあったのでは!」と。
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