転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

30 父と娘

 騒ぎがひとまず収束したのは、日が傾き始めてからのことだった。
 関係者のみの閉じられた場ゆえ、民衆への直接の報せはまだ届いていない。
 だが、内部の力関係は一気に傾き、腐敗に加担していた枢機卿らは拘束され、失神していた教皇たちは粛々と運び出されていた。

 理央は控えの間に下がり、長椅子に腰を落とした瞬間、大きく息を吐き出した。

「はー……疲れた。プレゼンより質疑応答の方がカロリー使うのよね……」

 ジークが冷たい水を差し出す。

「最後まで堂々と立っていたのは大したものだ」

「褒めても何も出ないわよ」

 わざと軽口を返した、その時。
 控えの間の奥の扉が、音もなく開く。

「……失礼する」

 姿を見せたのは、王太子フェルディナン。
 堂々とした佇まいながらも、瞳の奥に複雑な色を宿していた。

 ジークとルキウスが同時に立ち上がる。

「殿下」

「護衛は不要だ。しばし、こちらの方と二人きりにしてもらえるか」

 一瞬、ジークが理央を見た。
 理央が小さく頷きを返す。

「それでは、扉の外で控えております」

 静まり返った室内に、王太子と聖女だけが残される。
 一見、異色の組み合わせである。
 彼らの接点は、あえていうなれば、共に広く民衆にその名と存在を知られているという点だろうか。

 ジークとルキウスにつられるように立ち上がった理央は、実は『裸足』だった。
 長時間の立ちっぱなしと大舞台の疲労で、こっそり儀礼用のパンプスを脱いで休んでいたのだ。
 彼女の足元をじっと見る王太子の視線にわずかに身じろぎしたせいで、脱ぎ捨てた靴がころんと転がる。

「これは失礼した。遠慮なく座ってくれ」

 鷹揚な態度で言われ、理央は探るように相手を見つめ返す。
 だが、王太子がそれ以上何も言わない為、先程倒れこんだ長椅子に改めて座りなおした。
 裾を整え、一応、裸足のつま先が見えないように隠す。

「先ほどの奇跡は……君が起こしたものなのだな」

「さあ……どうなんでしょうか」

 傍から見れば、不遜極まりない態度であった。
 だがしかし、フェルディナンはただ眼を細めるだけに留める。

「証拠の提示、推論、そして論説。非常に解りやすく――見事なものだった。監察官や近衛との連携、それから体制内部での権力移動(クーデター)にかかる構成も、君が采配したものなのだろう。本当に、鮮やかだった」

(そりゃあ、前世で炎上プロジェクトをいくつも鎮火させてきたからね……)

 見た目とは裏腹に、饒舌なフェルディナンの言葉に、理央は表情を曇らせる。
 この男は、他に言う事は無いのだろうか。
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