転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

31 聖女をやりたくない理由

 大舞台での立ち回りがすべて終わり、王太子との密談も終えた後。
 完全に長椅子に臥せった理央は、糸の切れた人形だった。

「もうやだ」

 背中にかけられた上着の感触で、彼女は顔を上げた。
 ジークが当然のようにそこに立っている。

「何がだ」

「ぜーんぶ。聖女なんてやりたくない」

「あれだけ見事な弁で大立ち回りをしておいて、今更か?」

「だからこそよ! 疲れちゃったの。聖なる裁きはぶっ壊せたっぽいけど、その後の事なんて深く考えてなかったんだよね。とりあえず生き残ることに精一杯でさ」

 勢いよく身を起こした理央は、指を折って数え始める。

「その一、毎日聖女として『ありがたや~』って拝まれるの、プレッシャーで肩がこる」

「……それは誇るべきことだろう」

「その二、奇跡って神秘扱いされてるけど、私は全然制御できてないの! 下手したら自分ごと建物ぶっ壊すわよ!」

「確かに爆発は困る」

「その三、もっと好き勝手にやりたいことしてたい! その四、難しい事考えたくない! その五、自分の半径……そうね、両手広げられるくらいの空間が幸せなら、正直他の事なんて知ったこっちゃない。だって私、ただの凡人だもん。欲望だってあるし、崇拝されるような立派な存在じゃないの!」

「……」

「今そこ、黙らないで!? これが一番大事なの!」

 横で聞いていたレオが吹き出した。

「ははっ、まあ確かに『人として』なら、当たり前すぎる感覚っすね。俺も出来れば楽して稼ぎたいし、毎日うまいもの食いたいし、女の子にもモテたいし」

「フローラさんは?」

「あれは本命です。それ以外は別腹っていうか」

「うわあ……」

 ルキウスが眼鏡のブリッジを押し上げながら、手帳に淡々と書き留めていく。

「記録しておきます。聖女殿の五大不満。拝まれるプレッシャー、爆発への不安、不自由さ……」

「やめて! 報告書に残さないで!」

 ジークはしばらく腕を組んで黙っていたが、やがて淡々と口を開いた。

「……だが、お前がやりたくなくても、民は聖女を求めている」

「知ってるけど……他力本願過ぎない? って話をしてるの。別に私が居なくたって国は回るし、貴方達の時間はもっと別の事に費やせるでしょ、って話」
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