転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

16 変化と予兆

 月が中天にさしかかり、雲の影へと光を滲ませていく。

 書庫の一室で、理央はまた『お悩み箱』の投書をひとつひとつ丁寧に読み込んでいた。
 信頼の芽が確かに育ちつつある一方で、奇妙な不協和音も混じってきている。

 『聖女様は、以前と別人のようです。どちらが本物なのでしょう』
 『最近の聖女様は、やりすぎだと感じます。どうかご無理をなさらないよう』
 『……正直、変化が怖いのです』

 どれもが偽らざる声。
 演じている仮面が、時に周囲に恐れを与えていることも、彼女は理解していた。

「意思を持って動くって、こんなにも怖がられるのね」

(新しい評価制度や業務フローを導入した時の、既存社員の典型的な抵抗反応――いわゆる『チェンジ・モンスター』ってやつね。改革には痛みが伴うわ)

 苦笑が漏れた、その時。
 ノックの音すら無く、唐突に書庫の扉が開く。

「……ちょっと、勝手に入らないで。一応、うら若き乙女のプライベート空間なんですけど」

(ノックはビジネスエチケットの基本でしょうが!)

「うら若き乙女が、書庫で夜な夜な投書を読み漁るか?」

「それはそう……だけど」

 ジークは机の上の手紙を一瞥し、静かに言った。

「迷っているな」

「迷ってない」

「嘘だ。先ほどの目は、信頼と疑念のあいだを彷徨っていた」

 図星を突かれ、理央は思わず顔をしかめる。
< 82 / 151 >

この作品をシェア

pagetop