【2025.番外編＆全編再掲載】甘い罠に溺れたら

苦い記憶

柔らかな秋の陽射しが差し込むオフィスで、私は黙々とパソコンに向かっていた。最近は天気の良い日が毎日続いていることもあり、忙しい日々の中でも気分は明るい。

「羽田さん！ 今日中にこの間の報告書、出せる？」

そんな私に、後ろから聞こえた一年先輩の水田先輩の声。私はクルリと椅子を回した。

「大丈夫です」

にこやかな優しい笑みを浮かべた水田先輩に、私は少し緩んでいた表情をキリッと引き締めて返事をする。

そんな私を見て、水田先輩は相変わらず優しい微笑みを浮かべながら、何かを考えるような表情をしたように見えた。

「……じゃあ頼むな。何かわからないことがあったら、いつでも言って」

それだけ言うと、水田先輩は自分のデスクへと戻って行った。

「ねえ、沙耶」

小さくため息をついた私の隣の席から、同期入社の阿部友里が呼びかける。私はそちらを見た。

「なに？」

「もう少し笑顔を向ければいいのに。水田先輩って、社内でも競争率高いんだよ」

友里の言葉に、私は何を言いたいのか察し、肩をすくめて曖昧な笑顔を浮かべると、手早くパソコンのファイルを開いた。

「まったく、沙耶は……」

友里は肩をすくめると、そのまま自分の仕事を始めた。