【コミカライズ】若き社長は婚約者の姉を溺愛する《宮ノ入シリーズ①》【番外編更新】
兄と弟
「お前に腹違いの兄がいる。名前は八木沢直真という」
両親を亡くし、しばらくした後、祖父が俺に告げた。
唐突すぎる祖父の言葉に一瞬、思考が停止した。
兄と言っても異母兄。
母の他に好きな相手がいたのか?
父に―――
「どうする」
驚き、俺は何も言えずに祖父を見ていた。
祖父は俺の返事次第で宮ノ入家に迎えるかどうか決めるということなのか、それ以上は言わない。
父が死に祖父は宮ノ入グループの社長に戻った。
祖父は俺がまだ中学生であっても甘えは一切許さない。
一人前として扱う。
それは俺がこの宮ノ入グループの跡継ぎだからだ。
葬式の時でさえ、俺は泣くことを許されなかった。
親戚達が集まる前で泣くのは弱みを見せることになる。
泣かなかった俺を『可愛げがない』と囁いていたが、泣けば泣いたで『まだ子供だ』と言い出して、お節介な親戚のうちの誰かが俺を後見し、宮ノ入グループを乗っ取ろうとするのは目に見えていた。
父の跡を継ぐのは自分だと思っていたが、兄がいると言われ、動揺していた。
もちろん、顔には出さないが。
「少し考えさせてほしい」
「わかった」
祖父はそれだけ言って、俺が住むマンションを後にした。
家族で暮していたマンションに今、俺は一人。
家政婦が用意した食事と片付けられた部屋。
俺に足りないものはない。
けれど、足りない。
なにかが。
それを探して視線を窓の外に向けた。
海沿いのマンションの窓から見えたのは海と夜景だけ。
冷たい窓ガラスに手のひらを重ね、欲しいものに手を伸ばす。
手に入らない。
暗い闇色の海が目の前に広がっているだけだった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
断ろうと思えば断れたはずだ。
異母兄を迎えるかどうか―――なぜ、断らなかったのか。
俺は珍しく迷い、決断を先延ばしにしていた。
父と母は仲がよかった。
それをずっとそばで見てきた俺は父が胸の内に他の女性を住まわせていたことが許せなかったのかもしれない。
イライラしていたせいか、今日は側にいるSPすら邪魔に感じた。
一人になり、しばらく考えたい―――そんな思いがあったのかもしれない。
俺が一人になることは容易ではない。
誘拐されないようにSPが何人かついている。
数学の問題を解きながら、思考する。
チャンスを見出す。
SPは俺が授業をサボるとは絶対に思わない。
なら―――
「先生」
「な、なんだ!?宮ノ入―――君」
「気分が悪いので保健室に行きたいのですが」
「なにっ!!保健室より病院がいいのでは」
「いえ、少し横になって休めばよくなります」
「そうか。なら、だれか付き添いを」
「結構です」
さっと立ち上がり、教室を出た。
出てから『病人だったな、もうすこし具合の悪い顔をするべきだった』と自分の演技力のなさを反省した。
裏門から抜け出し、中学校の外に出た。
SPを欺いたのは初めてだ。
どこへ行くかは決めてなかった。
ふらりと公園に向かった。
無意識に一人になれる場所を探していたのだ。
場所は宮ノ入本社近くの公園だった。
木が多く、池があり、そこの池には時々白い鳥がやってくる。
父に連れてきてもらったことがある―――
「父さん……母さん……」
今なら誰もいない。
泣いても大丈夫だ。
そう思っていた。
父が仕事の忙しい時にここで母と一緒に三人で食べたお弁当を今でも覚えている。
その父が母の他に女性がいた?
なぜ?
生きていたら、その理由を聞けたはずだ。
「あの……」
「―――っ!」
涙をぬぐって、顔をあげた。
見られた―――!