スイート×トキシック
『溺愛』
シューズロッカーを開けると、今日もまた“謎の封筒”が入っていた。
周囲を見回すも、特に怪しい人影はない。
取り出した封筒は淡いピンク地にリボンやレースの柄が入った、いかにもかわいらしいデザインだ。
裏返してみても差出人の名前は書いていない。
「またか……」
これで何度目だろう。
中身は大抵、手紙だった。
丸っこい文字でつらつらと想いの綴られた、いわゆるラブレター。
職員用のシューズロッカーは生徒たちのものと同様に錠のないタイプで、誰でも容易に開け閉めできる。
そのせいで誰が入れたのか、その現場を目撃でもしない限り特定するのは難しかった。
誰からの告白かも分からない以上、返事のしようもないのにどういうつもりでここに入れているのだろう。
以前見たとき「宇佐美先生の授業がいつも楽しみです」とあったことから、相手は俺の受け持っている生徒だろうことは分かる。
最初はいたずらだと思い、無視するつもりだった。
しかし、だんだんと手紙の頻度が増えてそうもいかなくなった。
国語の教師だったら、ノートやテストの筆跡と照合すれば特定できるかもしれない。
担当の教員に聞いてみようかとも考えたが、断りもなく人の手紙(しかもラブレター)を見せるのは気が引けた。
誤解されて不祥事扱いされても困る。
ため息をついたとき、はたと予定を思い出す。
(……そうだ、時間)
今夜は大学時代の友人たちと会う約束をしていたのだった。
一応、手紙をしまうと、職員玄関を出て駐車場へ向かう。
腕時計を確かめつつ車を発進させた。
「あ、来た来た」
指定された居酒屋の前にはふたりの人影があった。
どちらも同じ大学出身の気心知れた友人だ。
「遅ぇよ、颯真。どんだけ待たせんだよ」
「そうよー。しかも車で来たの?」
「悪い。家戻ってる時間なかったんだ」
合流しつつ、あたりを見回す。
4人で集まる予定だったはずだが、もうひとりの姿がない。
「……紗奈は?」
「昨日まで乗り気だったんだけどね。今日はなぜかずっと連絡つかないの」
妙だとは思ったものの、深くは気に留めなかった。
そのうち来るだろう、と軽く考えながら3人で店へ入る。
しかし、その日、彼女が現れることはなかった。