その笑顔を守るために

再発

「ねえー三ツ矢くん本当？貴方のお父さんって、原田先生の誤診で殺されたって…」

研修医が数名集まって昼食をとっていると、突然同期の立花恵が口を開いた。一斉に視線が三ツ矢に集まる。

「いきなり何言ってんだよ！そんなの嘘に決まってんだろ！」

強い口調で三ツ矢が言い放つ。

「だって…私、聞いちゃったんだよね。三年前、原田先生が研修医時代に診断誤って、患者さん死なせたって…それが三ツ矢くんのお父さんだったって…」

さらに恵が言い募った。

「誰がそんなでたらめ言ってんだよ！だいたいお前、長谷川先生に横恋慕してて、後輩の原田先生の事、嫉妬してるから…そんなバカみたいな作り話、真に受けてんじゃないのかよ！」

「嫉妬なんかしてないし！作り話でもない！」

「お前だって、原田先生のオペの前立ちやった事あんだろ？あのオペ目の当たりにして、よくそんな事言えるよな！」

「三ツ矢くんだって前は原田先生の事、あんまりよく思ってないような感じだったじゃない？いつの間に鞍替えしたのよ！」

「実は俺も聞いたんだよね。その話…最初はまさか…って思ったんだけど、よくよく聞いてみたらなんだかやっぱり本当の事のような気がしてさぁ。でも、研修医時代の話だろ？それに、誤診なら医療過誤で裁判とかになったりしねぇのかな？実際はどーなんだよ、三ツ矢…」

「だから、そんなの嘘だって言ってんだろ！」

次第にエスカレートしていく会話に突然怒りを押し殺した様な声が割り込んだ。

「おい…お前ら、そんな話しこんなとこでしていいと思ってんのか！」

「お、大野先生！」

「原田に何か文句があんなら俺に言え！あいつは俺の一番弟子だからな！あいつの失態は俺の責任だ！」

「い、いえっ、文句なんてとんでもありません！失礼しました！」

そこにいた研修医達は一斉に立ち上がり、食べかけの定食を持ってそそくさと立ち去って行った。
後に残っていたのは箸を握りしめた三ツ矢だけだった。

大野が横に腰を下ろす。

「なんで、あんな話しが持ち上がってんだ？」

「それが…僕にもよくわからないんですが…おそらく噂の発端は研修に来ている、小児科の松本先生じゃないかと…僕も色々言われたので…」

「あの…バカ娘！」

大学教授のお嬢様をバカ娘呼ばわりするのは、おそらく大野くらいのものだろう。

「で…三ツ矢、お前はどう思ってんだ？」

「僕は…さっきも言いましたけど、あれは…あの時の原田先生の診断は正しかったと思っています。そりゃ最初はよくわかりもせずに「人殺し」なんて言いましたけど…本当に酷いこと言ってしまったと、今は後悔してます。」

「そうか…ならいい…お前は、自分の目で確かめて、自分の耳で聞いた事と自分で感じた事を信じてりゃーそれでいい。」

「はい…」

三ツ矢は静かに頷いた。