【書籍&コミカライズ作品】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~【第三部更新中】
煩悩には勝てる気がしない ~王太子Side~
プロムが終わり、学生生活を終えた私は、毎日父上の仕事の補佐をしながら執務に追われる日々を送っていた。
プロムでのオリビアは天女のように美しかった……息の詰まる仕事の合間に彼女を思い出して、ほんのひと時息抜きをするのが日課だ。
あの日、私が贈ったドレスや宝石を身に纏い、優雅に階段を下りてくる姿。
「今日も一段と綺麗だよ」と、月並みな言葉しか出て来ない私に笑顔で「ありがとう、あなたも素晴らしいわ」と返してくれるオリビアに自制心をかき集めてエスコートをした自分を褒めてやりたい。
その後、ホールへ入る前に彼女と気持ちが通じた時の事を思い出すと、今すぐにでも会いに行きたくなるので、なるべく思い出さないようにしている。
執務机の上には今日も今日とて書類が山積みになっており、それらを放り出して彼女のところへすっ飛んでいくと、ニコライにドヤされてしまうからな。
だがしかし、可愛かったな…………淹れてもらったお茶を飲みながら、幸せなひとときに浸っていると、どこからともなく咳払いが聞こえてくる。
「ゴホンッ、休憩中かとは思いますが、まさかオリビア様のもとへ行きたいと考えているわけではありませんよね?」
「………………」
いつの間にかニコライがいた事に気付かずに、顔が緩んでいたところを見られていたとは……私の心の中まで悟られてしまい、返す言葉に詰まってしまう。
「行きたくても行けない状況なのは分かるだろう?大司教がいなくなった後処理がまだまだあるからな」
「王都では聖ジェノヴァ教会跡地を教育施設にするのも進んでいますし、働き口を増やし、生活のサポートも整えたおかげで信者たちが騒ぐ事も減っていますが、地方では各地で小規模の暴動がたびたび起きていますしね」
今回の件が公になり、聖ジェノヴァ教会を深く信仰していた者は王家こそ敵だと思う者も少なくなかった。
自身の信仰を突然奪われたのだから、行き場のない気持ちが渦巻いているのだろう。
時間が解決すると思い、放っておくとどんどん暴動は大きくなってしまうだろうから、放っておくわけにもいかない……最近はもっぱら、その事に頭を悩ませていた。