幼馴染の御曹司との契約結婚には秘密があって!?
亀裂
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「俺の顔になにかついているのか」
平日の朝。
ダイニングテーブルの向かいの席でタブレットに視線を落としながらパンを食べていた涼成くんを見ていると、私の視線に気づいた彼がふと顔を上げた。
「ううん、なんでもないよ」
にこっと笑って首を横に振る。
お皿の上のトマトをフォークでさしてぱくりと口に入れた。
時刻は午前七時。
珍しく涼成くんの出勤が遅いので今朝はふたりで朝食を取っている。
けれど、とくに会話はない。
涼成くんは片手に持ったパンを口に運びながら、真剣な表情でタブレットを見ていた。
忙しいのはわかるけれどあまりお行儀がよいとはいえない。
「涼成くん。仕事するか食べるかどちらかにすれば?」
「ああ」
短く返事はするものの相変わらず彼の視線はタブレットに向かったまま。
そんな涼成くんを見ながら私は朝食を食べ進めていく。
ふと子供の頃のことを思い出した。父が出張で不在のとき、涼成くんの家に泊まりで預けられていたときのことだ。
あの頃はふたりで朝食を食べながらずっと話をしていたのを覚えている。
おしゃべりに夢中になって食べる手が止まり、涼成くんのお母さんに『早く食べなさい』とよくふたりで注意された。
けれど、今は……。