日陰令嬢は常に姿を消して生活したい~あれ?私って転生者?陰から皆さんをお守りいたします。
前世の記憶
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昨年魔王が討伐され、世界に平和が訪れた。魔王の脅威に怯え続ける生活から解放され、人々は勇者に感謝しながら笑顔溢れる生活を送っていた。そんなある日のこと……本日は晴天、神からの祝福を受けるには良き日……。そんな日に、私は溜め息を付きたいのを必死に我慢していた。
鏡に映るのは真っ白なウエディングドレスを着た自分と、同じく白いタキシードを着た本日私の旦那様になる人。その人は不機嫌な顔をして、鏡を……と、いうより私を睨みつけていた。そんな私は視線だけで自分と相手を交互に見ながら違和感を感じていた。
この人の隣に立つ違和感……この人の隣に立って良いのは一人だけ。
「リリー……」
ボソリとこれから私の旦那様になる人が呟いた。私は一瞬だけ眉間に皺をよせたが、すぐに表情を元に戻す。その理由は「リリー」その名が私の名前ではないからだ。私はリリーと呟く声を無視して、黙ったまま鏡を見続けた。すると、シンと静まり返った空間に居心地の悪さを感じたのか、旦那様となる人は何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
はぁーー。
思わず私は大きく溜め息を付いた。私は今日、この人と結婚しなくてはいけない。この人の隣には、私より「リリー」と呼ばれた人が似合うのに……。
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